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月面着陸アームストロング氏“ファーストマン”になれた理由

 アポロ11号船長として知られるニール・アームストロング氏が、8月25日、心臓バイパス手術の合併症で逝去した(享年82)。

「『歴史を作った男』が亡くなってしまい、非常に残念な気持ちです」

 そういって死を悼むのは、慶大医学部准教授の向井万起男氏(65)だ。

 宇宙飛行士・向井千秋氏の夫である同氏は、有数の“宇宙通”として知られている。2005年に出版されたアームストロング氏初の公認伝記本も原書で読破した。

「書名は『ファーストマン』。著者はNASAの歴史学者で、宇宙飛行士の自伝・伝記の中ではピカイチです。

 最も興奮したのは、何といっても月面着陸のシーン。バズ・オルドリン操縦士とアポロから着陸船イーグルへ乗り移って、月の平坦な場所を探しながら着陸するまでを克明に描いた場面でした。

『宇宙飛行士』と一括りにいっても、オートマチックな面が多い宇宙船を操る現代と、手動で行なう面が多かったアポロ時代とでは要求される技術が段違い。宇宙工学の歴史を学べる価値もあります」

 アームストロング氏の「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍だ」という言葉はあまりにも有名だが、当初、月面に初めて降り立つのに有力視されていたのはオルドリン氏だったという。

 なぜアームストロング氏が“ファーストマン”となり得たのか。一説には船長と操縦士という肩書きや経歴が上だったからといわれるが、向井氏は別の理由を主張する。

「アームストロング氏は元は海軍軍人ですが、宇宙飛行士になった時には既に軍をやめ、民間人でした。ファーストマンは、軍人よりも民間人のほうがいいという政治的判断をしたのだと思う。NASA関係者は否定していますが。

 それに彼の人間性に触れると、人選は正しかったと納得できます。アポロ計画の宇宙飛行士には人前に出ることを好む派手な人もいましたが、彼は70年代には表舞台を去って、静かに生きた。晩年になるまで、伝記本へゴーサインを出さなかったこともそう。生き様を知れば、人選は最善だったと思う」

 確かにオルドリン氏は、月に降り立った“2人目”という事実を「人生の敗北」と感じ、屈折した言動をしたことがあるという。

※週刊ポスト2012年9月14日号

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