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日本大使の国旗強奪事件は習近平氏が背後にいなければ不可能

 尖閣諸島に上陸した中国人グループらを支援するパトロン的存在の劉夢熊・中国人民政治協商会議(政協)委員は、再上陸を否定した。そして、劉氏は前回の上陸には習近平が関与していることを指摘した。取材にあたったジャーナリストの相馬勝氏が報告する。

 * * *
 劉氏は香港保釣行動委員会の船が8月12日、香港海上警察による出港阻止命令にかかわらず航行できたのは、「中国政府が黙認したからだ。私はその一部始終に関わっている」と述べ、8月の尖閣上陸事件の真相を語り始めた。

 劉氏によると、香港の「保釣運動」はその時々の日中関係と密接に関係している。関係が悪化すれば、中国政府は香港の保釣団体を利用して尖閣海域に侵入するよう仕向けてきた。1996年と1998年に香港船が領海侵犯したが、その後は今年8月まで出港を許されたことはなかったという。

「私はこれまで何度も、香港における中国政府の代表部である中央政府駐香港聯絡弁公室(中聯弁)の幹部と協議し出港を求めてきたが、その都度、拒否された。特に、反中的な小泉純一郎政権が退陣して安倍晋三政権、その後の福田康夫政権が誕生すると、『いまは(出港を)控えてほしい』と幹部から伝えられた。『北京は日中関係を重視している。これには党指導部の意向が強く働いている』と告げられたこともあった」

 劉氏はこう述べ、中国指導部が尖閣問題を重視していたことを明らかにした。

 それでは、事態が一転して、8月に出港が許されたのはなぜなのか。劉氏は次のように説明した。

「船があと20kmで香港の海域を出るという時点で、阿牛(上陸計画の中心人物・曾健成氏の愛称)から『警察が船に乗り込んできた。どうすればいいか』と電話があった。私はすぐに梁振英・香港行政長官や中聯弁の幹部に連絡をとった。

 同時に、阿牛にメールを送り、『私は政協委員の劉夢熊だ。君たちは香港の警察だ。日本の警察ではない。保釣行動委の船を止めないでほしい』との文章をハンドマイクで読み上げるよう指示した。阿牛がこれを読むと、しばらくして海上警察は撤退したという。中国政府と香港政府が出港を容認したのだ」

 劉氏はこう語り、「中国政府はわれわれの上陸を認めた。反日運動に利用したともいえる。逆に、日本政府もわれわれの行動を利用して国有化の口実にしたともいえる」と語り、「ふうーっ」と大きなため息をついてみせた。

 劉氏は具体的に、中国指導部の誰が上陸を黙認したかについては明らかにしなかったが、ある中国筋は「それは習近平・国家副主席に決まっている。習氏は党政治局常務委員会で香港・マカオ問題を担当する最高責任者だ。中聯弁と香港政府は最終的に習氏が管轄している」と指摘する。

 実は習氏が対日牽制に動いたのはこれだけではない。同筋によると、丹羽宇一郎大使の専用車を襲撃し、日本国旗を奪ったのは軍の情報部だという。一般市民が公道上で大使の車を特定するのは至難の業で、当日の大使の行動や車種、ナンバープレートを知っていたとしか考えられない。

 これは軍などの高度なインテリジェンスを必要とする機関でなければ無理だ。しかも、30分以上も大使の車を追い回す高度な運転技術も必要としたはずだ。

「あとの処罰も考えれば、軍に強い基盤を持つ習氏がバックに付いていなければ不可能だ。そんなバカなことをする一般市民はいない」と同筋は苦笑する。

 さらに、中国全土のデモについても習氏の関与が取り沙汰されている。中国問題専門家で、香港商業ラジオの番組司会も務める潘小濤氏は、「習近平氏は9月2日から14日まで姿を消し、『用意ができました』とばかり、中国全土で反日デモが燃え上がった15日に姿を現わしている。これは政治的な理由の雲隠れだった可能性が高い」と推測する。

 香港でも有数の中国専門家である劉瀾昌・香港ATVシニア副総裁は「野田佳彦・首相の対応が胡錦濤・主席を激怒させたことが原因だ」と主張する。胡主席と野田首相は9月9日、ロシア・ウラジオストクで開催されたAPECで非公式に15分間ほど「立ち話」をした。

 その際、胡主席は尖閣国有化に強く反対し、強い対抗措置をとることを強調した。にもかかわらず、野田首相は翌10日に「尖閣国有化」を宣言し、11日に閣議決定してしまった。「メンツを潰された胡主席は激怒し、反日運動を容認した」と劉氏は明かす。

 実は、それ以前に習氏はすでに反日デモを組織していたのだという。胡主席が容認したことで125都市に拡大し、スーパーや自動車工場などが焼き討ちに遭うほどエスカレートしたことは間違いないが、一連の反日運動には習氏も深く関わっていたというのだ。

※SAPIO2012年11月号

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