ライフ

自転車の短期無断借用 「窃盗」が成立しないケースもある

 竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「自転車を勝手に無断借用された。その行為を罪に問えないか」と以下のような質問が寄せられた。

【質問】
 近所の病院へ行った時のことです。自転車を自転車置き場に置いていたところ、盗まれていました。盗難だと思っていたのですが、2、3日後に病院に行くと、自転車が戻っていたのです。誰かが無断で乗って行ったようです。このような迷惑な無断借用は、何らかの罪にならないのでしょうか。

【回答】
 自転車置き場に置いてある自転車は、捨てられたものでもなければ、忘れ物でもありません。通院している患者や見舞客が一時的に停めているだけです。即ち、持ち主の所有物というだけでなく、まだその占有を失わず、支配している状態です。他人が占有しているものを、その占有下から奪えば、盗んだことになります。

 そうすると、刑法第235条の窃盗になるかというと、少し問題があります。なぜなら、窃盗罪の成立には、犯人に「自分のものとする意思」、即ち不法領得の意思がなければならないと解されているからです。すぐに返す予定で無断拝借した場合には、まだ不法領得の意思はなかったとして、窃盗にならない可能性があります。

 しかし不法領得の意思について、最高裁は、「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い、これを利用しもしくは処分する意思」と解し、その経済的用法に従った利用とは、「そのものの本来の用途にかなった方法、即ち、財物から生ずる何らかの効用を享受する方法で足りる」ともいっています。

 この考え方からは、自転車本来の効用である乗車しての運転と、それによる移動をして使用したのであれば、経済的用法に従った利用であるといえます。短距離だけ乗ってすぐに返し、自転車の損耗が考えられない場合は、処罰するまでの違法性はなく犯罪といえないでしょうが、それ以外は窃盗が成立すると思います。

 もっとも、次のような下級審裁判例もあります。忍び込み強盗のため、深夜、近所の駐輪中の自転車を無断利用し、犯行後、夜明け前に元あった場所に返すことを繰り返した犯罪者について、ある地裁は強盗を有罪にしましたが、自転車の無断使用は、使用窃盗であるとして無罪を言い渡しています。

※週刊ポスト2012年12月21・28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。  きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。 きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
NEWSポストセブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン