白澤卓二氏は1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。アンチエイジングの第一人者として著書やテレビ出演も多い白澤氏が、腸内細菌について解説する
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われわれヒトの体は60兆個の細胞から成り立っているが、腸の中にはそれ以上の100兆個の細菌が存在している。1個1個の細菌は、われわれの体の細胞よりサイズが小さいので、100兆個の細菌でも総重量は1キログラムと軽い。しかし、数の原理から言えば、人間が腸内細菌に飼われていると言っても過言ではない。
最近「メタゲノム解析」という新しい解析手法が開発され、ヒトの腸の中の細菌叢(腸内細菌の集合)の実態が明らかとなっている。
これまでの便の解析では、寒天培地の上で便を培養して形態学的に細菌の種類を特定していた。しかし、そうした方法で培養可能な細菌は、ヒトの腸に存在する常在細菌の一部に過ぎないことがわかった。それに比べ、メタゲノム解析は細菌叢のゲノム配列をすべて解析するという方法なので、細菌叢の全体像を明らかにすることが可能である。
東京大学大学院・新領域創成科学研究科の服部正平教授は日本人の腸内細菌叢研究の第一人者だ。
2007年には乳児から大人までを含む13人の日本人の腸内細菌叢に関するメタゲノム解析を実施し、日本人の腸内細菌叢がファーミキューテス門、バクテロイデーテス門、プロテオバクテリア門、アクチノバクテリア門と呼ばれる4種類の菌類に分類できることを明らかにした。それまで善玉菌、日和見菌、悪玉菌などと呼ばれてきた古典的な腸内細菌叢の分類を覆し、新たな分類概念に書き替えることに成功したのだ。
また、多くの人が健康のために納豆やヨーグルトを一生懸命食べていたが、これらの菌はすでに乳幼児期には日本人の細菌叢の中に存在していることも解明。一人一人がそれぞれ特有の容貌を持つように、細菌叢も個人特有のプロファイル(組成)を持っていることがわかった。この組成は親子や兄弟、夫婦など同じ食生活を共有している家族でも類似性を示さなかったという。
※週刊ポスト2013年1月25日号