「ウナギが食べられなくなる」──かつて鯨肉を食べる習慣が失われたように、また一つ、日本の伝統的な食文化の灯が消えつつある。しかも、危機に瀕しているのはウナギだけではない。
すでに国際的な規制がかけられているマグロは言うに及ばず、かつて庶民の味だったキンキや、たらこ・明太子の原料となるスケトウダラも資源枯渇が懸念される。元水産庁参事官の小松正之・政策研究大学院大学客員教授によると、
「キンキの漁獲量は30年前の年間約1万2000トンから現在は1200トン程度と10分の1になってしまった。冷たい海を好むスケトウダラは日本海北部の利尻、礼文島周辺に産卵場があったが、乱獲や水温の上昇などにより現在は縮小し、将来は消滅しかねない」
という。早急に実効性のある資源管理を行なわなければ、高値となって食べられなくなるばかりか、日本の漁業自体が大ダメージを受ける恐れがある。
水産物以外にも将来食べられなくなるものがあると指摘するのは資源・食糧問題研究所所長の柴田明夫氏だ。
「2006年以降、米国では50州のうち26州で、原因不明の蜂群崩壊(ミツバチの大量失踪)が起きている。日本を含め世界中でも同じ現象が見られる。ミツバチによる受粉ができなくなると多くの農作物に被害が及ぶ。イチゴやメロン、スイカなど、一時的に食べられなくなる品目が出てくる」
ほかにも、秋鮭や小麦などは中国をはじめ新興国に買い負けする現象が見られ、アメリカ産大豆などでは日本の消費者が好む非遺伝子組み換え作物が作られなくなる可能性があると柴田氏は言う。
「これまでは穀物など食糧価格が高騰しても、円高により上昇分を吸収できた。しかし円安に転じるとそうはいかない。これまでのように安くて上質な食品が輸入できなくなり、食べられなくなるものは増えていく」(柴田氏)
※SAPIO2013年9月号