国内

官僚の人事権「大臣は“一日警察署長”と同じレベル」との評

 数々のおバカ規制を作り出し、守り続ける役人たちは、自らを縛る法律を巧妙に骨抜きし、改革を先送りさせてきた。今回、取り上げるのは「国家公務員法」である。他の数多のおバカ規制の改革を遅らせている根源的な問題に、政策工房社長の原英史氏が斬り込む。

 * * *
 日本の官僚制度にはおかしな点がたくさんあるが、改革は進まない。たとえば「人事権」をめぐる問題がある。

 官庁のトップは言うまでもなく、それぞれの省の大臣だ。その上に総理大臣がいる。ところが、役人から見ると官庁のトップは大臣ではなく、むしろ官僚トップの事務次官だ。大臣は「一日警察署長」と同レベルと言われるほどの軽い存在に見られている。

 事務次官以下の官僚機構はしばしば、大臣も手を付けられない「聖域」のごとく扱われてきた。数年前の話だが、小池百合子防衛大臣(当時)が事務次官と衝突して更迭を表明した際、異例の事態としてニュースになったことがある。

 とてもおかしな話だ。国家公務員法の条文を見ると、官僚の人事権は「大臣」にあると書いてある(55条)。にもかかわらず次官を更迭しようとするとニュースになる。そのくらい条文と実態は乖離してきたのだ。

 大臣が実質的に人事権を行使できないことの意味は大きい。人事権は組織運営の根幹だ。人事に手を出せない“名ばかり上司”は軽んじられるに決まっている。これが「大臣は一日警察署長」問題の根源であり、さらには我が国で既得権構造やおバカ規制が維持される原因だった。

 官僚機構の「聖域」化を制度的に支えてきたのが、「公務員の身分保障」である。公務員は原則として免職も降格もされない。

 正確に言えば、「身分保障」制度は国家公務員法の条文(75条)とその運用慣行が一体となって形作られたものだ。条文だけを見ると、実はそれほど身分安泰には見えない。

 たとえば、「勤務実績がよくない場合」などは免職も降格もできることになっている(78条1項)。しかし、これが解釈・運用上、「よほどのことがない限り、免職・降格はできない」とされ、制度として確立されたのが「身分保障」だった。

 結果、実質的に大臣に人事権のない状態が生まれる。たとえば、大臣が優秀な課長や役所外部の人材を思い切って局長に起用しようと考えた時にどうなるか。

 たしかに形式上は、大臣にはそういう人事を行なう権限がある。だが、ここで「身分保障」が制約となる。つまり、既に局長ポストにある人を免職・降格できない仕組みなので、入れ替えができない。玉突きで入れ替えていこうとしても、どこかで降格が必要になって破綻する。

 結局、年功序列をベースに役所内で官僚たちが準備した人事案を採用することに終わりがちだ。これが慣行となり、「大臣が官僚人事に口を出すことは異例」という不思議な伝統が生まれたのである。

 公務員制度改革の根幹はそうした制度を改め、官僚組織が正常に機能するように変えることだ。

 株式会社にたとえれば、「大臣が経営者としてきちんと機能できる制度にすべき」と言ってもよい。株式会社の場合、株主が取締役を選び、その中で選ばれた代表取締役が会社組織を運営する。だから、株主のために会社組織が機能する。

 しかし国の場合、“株主”である国民が政治家を選び、その中から総理大臣や大臣が選ばれるが、官僚組織の運営はこれとは切り離され、事務次官以下がすべてを決める。これでは、官僚組織が国民のために機能することは担保されない。

※SAPIO2013年10月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平バースデー》真美子さんの“第一子につきっきり”生活を勇気づけている「強力な味方」、夫妻が迎える「家族の特別な儀式」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
東京・新宿のネオン街
《「歌舞伎町弁護士」が見た性風俗店「本番トラブル」の実態》デリヘル嬢はマネジャーに電話をかけ、「むりやり本番をさせられた」と喚めき散らした
NEWSポストセブン
横浜地裁(時事通信フォト)
《アイスピックで目ぐりぐりやったあと…》多摩川スーツケース殺人初公判 被告の女が母親に送っていた“被害者への憎しみLINE” 裁判で説明された「殺人一家」の動機とは
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《女優・遠野なぎこのマンションで遺体発見》近隣住民は「強烈な消毒液の匂いが漂ってきた」「ポストが郵便物でパンパンで」…関係者は「本人と連絡が取れていない」
NEWSポストセブン
記者が発行した卒業証明書と田久保市長(右/時事通信)
《偽造or本物で議論噴出》“黄ばんだ紙”に3つの朱肉…田久保真紀・伊東市長 が見せていた“卒業証書らしき書類”のナゾ
NEWSポストセブン
JESEA主席研究員兼最高技術責任者で中国人研究者の郭広猛博士
【MEGA地震予測・異常変動全国MAP】「箱根で見られた“急激に隆起”の兆候」「根室半島から釧路を含む広範囲で大きく沈降」…5つの警戒ゾーン
週刊ポスト
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト
東川千愛礼(ちあら・19)さんの知人らからあがる悲しみの声。安藤陸人容疑者(20)の動機はまだわからないままだ
「『20歳になったらまた会おうね』って約束したのに…」“活発で愛される女性”だった東川千愛礼さんの“変わらぬ人物像”と安藤陸人容疑者の「異変」《豊田市19歳女性殺害》
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で、あられもない姿をする女性インフルエンサーが現れた(Xより)
《万博会場で赤い下着で迷惑行為か》「セクシーポーズのカンガルー、発見っ」女性インフルエンサーの行為が世界中に発信 協会は「投稿を認識していない」
NEWSポストセブン