「全身の筋肉は弱ってしまっておりますが、それ以外はまったく正常で、特に頭は冴え渡っております。元気だった時より、むしろ文化的な生活を送っているくらいかもしれません」
間髪入れず、男の眼が再び動き出した。ぎょろり、ぎょろり、ぎょろり。
〈これから が じんせい の しようぶ とじようこく には びよういんが あれば たすかる ひとも たくさん いるはず せかいじゆうに かんじやの ための びよういんを つくるため あたえられた びようきと おもい かんしや している でなければ のうそつちゆうや こうつうじこで しんでた かも〉
直後に男の唇が少しだけ開き、ピンク色の歯茎が見えた。それが笑っていることを意味するのだと気づくのに、私はずいぶんと時間がかかった。
※『トラオ 不随の病院王 徳田虎雄』(小学館文庫)より適宜抜粋