国内

眼球の動きで意思疎通を図る徳田虎雄氏のインタビューの様子

 公職選挙法違反にまつわる医療法人・徳洲会事件で、いよいよ創業者たる徳田虎雄氏への捜査も本格化しそうな局面だが、難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を罹患している徳田氏は眼球以外の器官を動かすことができない。東京地検特捜部はいかにして徳田氏から「聞き取り」を行なうのか──。

『トラオ 不随の病院王 徳田虎雄』(小学館文庫)の執筆の過程で、徳田氏本人へのインタビューを果たしたジャーナリスト・青木理氏が約2年前の「究極の問答劇」を振り返る。

 * * *
 神奈川県鎌倉市にそびえ立つ地上15階建ての巨大総合病院。2010年に竣工した真新しい病舎の最上階に広々とした特別室がしつらえられ、その室内には幾人もの人たちがいた。白衣に身を包んだ看護師の男女も、スーツ姿の秘書たちも、そして取材者の私も。

 しかし、誰一人として声を発せず、室内は奇妙な静寂に包まれていた。だから、かすかな物音もはっきりと耳に届いてくる。一つは、ブーンという空調の音。もう一つ聞こえるのは、人工呼吸器の駆動音。

 シューッ、プシューッ、シューッ、プシューッ……。ひそやかな音を奏でながら、人工呼吸器は規則正しく駆動を続ける。窓の外を眺めれば、遥か彼方にキラキラと輝く海原が望み見える。だが、特別室内にいる誰一人として、その美しい風景に心を奪われる者はいない。

 介護役の看護師たちも、スーツ姿の秘書も、そして取材者である私も、空調と人工呼吸器が奏でるわずかな音だけを耳朶の隅に感じながら、ひたすら一点を凝視する。黒い車椅子に身を委ねた徳田虎雄の、眼窩の中の眼球を――。

 男の眼前には、透明なプラスティック製の文字盤が掲げられていた。大きさは横50センチ、縦30センチほどだろうか。ひらがなの50音と、0から9までの数字、それに「YES」「NO」といった文字群が記されたプラスティック製の文字盤を掲げ持つ秘書が、盛んに動く男の眼が指し示す文字を盤の裏側から中指で追う。言葉を失ってしまった男の意思を、そうやって受け止めるのである。 

 秘書の傍らでは、指された文字を別の看護師がひとつずつメモ用紙に書き取っていく。男の眼は、プラスティック盤上の、次のような文字を追った。

〈ぜんしんの きんにくは よわつてしまつても あたまは せいじようで さえ わたつている げんきだつた ときより むしろ ぶんかてき せいかつ かも〉

 ようやく男の眼の動きが止まると、看護師からメモを手渡された秘書がおもむろにこちらへと向き直り、男の“お言葉”を恭しい口調で“再生”した。

関連記事

トピックス

日米通算200勝を達成したダルビッシュ有(時事通信フォト)
《ダルビッシュ日米通算200勝》日本ハム元監督・梨田昌孝氏が語る「唐揚げの衣を食べない」「左投げで130キロ」秘話、元コーチ・佐藤義則氏は「熱心な野球談義」を証言
NEWSポストセブン
ギャンブル好きだったことでも有名
【徳光和夫が明かす『妻の認知症』】「買い物に行ってくる」と出かけたまま戻らない失踪トラブル…助け合いながら向き合う「日々の困難」
女性セブン
破局報道が出た2人(SNSより)
《井上咲楽“破局スピード報告”の意外な理由》事務所の大先輩二人に「隠し通せなかった嘘」オズワルド畠中との交際2年半でピリオド
NEWSポストセブン
河村勇輝(共同通信)と中森美琴(自身のInstagram)
《フリフリピンクコーデで観戦》バスケ・河村勇輝の「アイドル彼女」に迫る“海外生活”Xデー
NEWSポストセブン
《私の最初の晩餐》中村雅俊、慶応大学に合格した日に母が作った「人生でいちばん豪勢な“くずかけ”」
《私の最初の晩餐》中村雅俊、慶応大学に合格した日に母が作った「人生でいちばん豪勢な“くずかけ”」
女性セブン
『君の名は。』のプロデューサーだった伊藤耕一郎被告(SNSより)
《20人以上の少女が被害》不同意性交容疑の『君の名は。』プロデューサーが繰り返した買春の卑劣手口 「タワマン&スポーツカー」のド派手ライフ
NEWSポストセブン
ポジティブキャラだが涙もろい一面も
【独立から4年】手越祐也が語る涙の理由「一度離れた人も絶対にわかってくれる」「芸能界を変えていくことはずっと抱いてきた目標です」
女性セブン
生島ヒロシの次男・翔(写真左)が高橋一生にそっくりと話題に
《生島ヒロシは「“二生”だね」》次男・生島翔が高橋一生にそっくりと話題に 相撲観戦で間違われたことも、本人は直撃に「御結婚おめでとうございます!」 
NEWSポストセブン
木本慎之介
【全文公開】西城秀樹さんの長男・木本慎之介、歌手デビューへの決意 サッカー選手の夢を諦めて音楽の道へ「パパの歌い方をめちゃくちゃ研究しています」
女性セブン
大谷のサプライズに驚く少年(ドジャース公式Xより)
《元同僚の賭博疑惑も影響なし?》大谷翔平、真美子夫人との“始球式秘話”で好感度爆上がり “夫婦共演”待望論高まる
NEWSポストセブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
男装の女性、山田よねを演じる女優・土居志央梨(本人のインスタグラムより)
朝ドラ『虎に翼』で“男装のよね”を演じる土居志央梨 恩師・高橋伴明監督が語る、いい作品にするための「潔い覚悟」
週刊ポスト