これ以前に、江氏の動静が伝えられたのは昨年7月、上海で、キッシンジャー元米国務長官夫妻を宴席に招き、歓談したとき以来だ。この模様は中国外務省のホームページで紹介されるという、従来とは違った伝えられ方をした。しかも、引退した幹部が外国の賓客と会見しても、その事実は伝えないというのが、これまでの不文律だったが、江氏夫妻とキッシンジャー夫妻との会見に関しては敢えてタブーを破った形で、極めて異例だ。
しかも、江氏の発言が意味深だった。それは次のような内容だ。
「昨年(2012年)の共産党第18回全国代表大会(党大会)で習近平氏が総書記に選ばれ、今年(2013年)3月の第12期全国人民代表大会(全人代)第1回会議で国家主席に選出され、指導部の新旧交代が行われた。習近平氏は非常に有能で、知恵のある国家指導者だ。中国のように大きな国はあれこれ問題が出るのは当たり前で、問題が出るのを恐れることはない。かギは果断に処理することにある」
読んですぐに分かるように、習氏の能力を高く評価し、絶賛したものだった。このため、江氏が慣例を破って、習氏を褒め称える内容を公表しなければならないところまで、習氏が政治的に追い詰められているのではないかとの観測が出たほどだ。
今回の江氏の頻繁な露出ぶりも、香港を中心に「昨年来の政争なり権力闘争が絡んでいる」との見方が強い。つまり、前政治局常務委員の周永康氏が汚職に絡んで身柄を拘束され、近く逮捕され、腐敗の全容が公表されると伝えられるが、李鵬元首相ら保守派の長老幹部が「現役の党政治局常務委員とその経験者の刑事責任は問わない」との不文律を盾に周氏を庇い、習指導部の方針に抵抗しているというのだ。
このため、習氏は周氏の摘発に踏み出せない状態で、この膠着状態を打ち破ろうと、江氏が最近、頻繁に現れ、李鵬氏らを牽制しているというが、北京の観測筋は「近々周永康事件が決着するとの情報があり、責任を問うのか、問わないのかがはっきりする。いまは、その激しいせめぎ合いが展開されている」と明らかにする。