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9.11後の米国に倣って対策を講じれば福島第一の悲劇防げたか

 日本全国で原子力発電所の稼働をめぐる裁判が起こされている。その多くは、原子力発電所を所有する電力会社を相手取っているが、それでは戦う問題を間違えることになると大前研一氏はいう。糾弾・追及すべき問題は何なのか、大前氏が解説する。

 * * *
 福井県の大飯原発稼働をめぐる裁判は、住民たちが関西電力を相手取って起こしたものだった。関西電力に対して運転差し止めを命じた判決をうけ、朝日、毎日、東京の3紙は称賛した。関西電力を相手取ったこの裁判以外にも、原発を巡って地元住民らが電力会社を訴えている裁判が各地で起こされている。だが、マスコミや住民は、糾弾・追及すべき問題を間違えている。

 東京電力・福島第一原発事故の本質的な最大の原因は、すでに私が繰り返し指摘してきたように、「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」と定めた原子力安全委員会の“安全指針”にある。この指針通りに東電は福島第一原発を設置したが、実際には送電線も非常用交流電源設備も復旧することなく全電源が長期間にわたって失われ、悲惨な事故に至ったのである。

 マスコミは、まずこの間違った指針がどのような経緯で、誰の責任で定められたのか厳しく追及すべきだし、住民が訴訟を起こすなら当時の原子力安全委員会を相手取るべきだと思う。

 さらに、アメリカの場合は2001年の「9.11」同時多発テロを受け、原発は2006年までに全部、もしテロリストに攻撃されて外部電源も非常用の電源や水源も絶たれても、必ず電源と水源を確保できるように万全の対策を講じている。ドイツもそれに追随している。

 ところが、日本の電力会社や経済産業省、原子力安全委員会などは、それを知りながら「経費がかかる」「日本はテロリストに攻撃される可能性が低い」といった理由で、業界ぐるみで無視したのである。

 もし、あの時点で日本もアメリカに倣って、全原発を何が起きても電源と水源を確保できるようにしておけば、福島第一原発事故の悲劇は防げたはずなのだ。これは紛れもなく“犯罪”であり、住民が裁判に訴えるなら、この担当者たちに矛先を向けて徹底的に責任を追及すべきだと思う。

※週刊ポスト2014年7月4日号

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