部屋に行ってみた。しかし両親はいなかった。
「お父さんやお母さんはどこかに行っているの」
「お父さんとお母さん、それと4人のきょうだいを、イスラム国が連れて行ってしまった」
少年の家族は、13人いたという。そのうち6人が連れ去られ、今このキャンプでは彼を含めて6人の子どもたちだけで暮らしていると話してくれた。
少年の兄は、ペシュメルガというクルド人自治区の治安部隊の兵士になり、イスラム国と闘っているという。
このキャンプには、クルド人の宗教といわれるヤジディ教徒が多く集まっていた。ヤジディ教徒は、多神教に近いといわれている。イスラム原理主義では、イスラム教でなくても、キリスト教やユダヤ教など一神教に関しては、それなりの敬意を払う。
しかし多神教に対しては殺していいとか、奴隷にしていいとか、極端な考えを持っているケースが多い。
多神教のヤジディ教徒は、70万~100万人いたらしいが、そのうち1000人が殺され、2000人が行方不明になっている。キャンプの中でも、そこら中からイスラム国に「殺された」「財産を奪われた」「家族を誘拐された」という悲鳴が聞こえてきた。一説では、誘拐した身代金だけで10億円を集めたという。モスルの銀行を襲い、中にあった数億ドルも懐にしている。
さらに、住民だけではなく文化財も悲惨な状態にある。シリアの都市遺跡で、世界遺産にもなっているパルミラ遺跡もそのひとつだ。イスラム原理主義は偶像崇拝を嫌うため、遺跡を破壊したり、盗掘して財宝を売ったりもして、4000万ドルの利益を上げたとされていた。
※週刊ポスト2015年2月6日号