外からやってきた救世主に頼りきるリスクを考えたい。前例がある。iPadやiPhoneで隆盛を極めた米・アップルの製品には多くの日本の部品や技術が使われている。
2000年代以降、日本の電機メーカーの世界的シェアが下がるにつれ、下請けや部品工場も危機に瀕した。いずれも高い技術を誇った彼らに、救いの手を差し伸べたのが同社だった。
メモリーなどの電子部品、または製品を磨く技術。アップル製品は、日本の“高品質”を取り込み、日本側も歓迎した。しかし──。商品の売り上げが思うように伸びなかった時、そのしわ寄せは下請けに回った。技術の汎用性が高まるにつれ、大幅な値下げも課された。
独占的にアップルと契約した日本側に、他の取引先といった回避策はない。通告をただ受け入れるだけだった。外来の救世主は実利を重んじる。情や慣例なる“日本的なるもの”は通じない。ひとたび状況が変われば、手を引くことに躊躇はない。
そのまま前述の訪日中国人に当てはめることはできないだろうが、商戦のグリップを彼らに握られるリスクは十分に想像できる。彼らとは誰か? 訪日中国人ではない。その裏にいる中国政府である。
訪日に関して中国政府が渡航制限を出した時点で足並みはピタッと止まる。中国人の購買力に依存する小売店舗や観光業は、すぐに息があがるにちがいない。こうした事情を知る中国政府は訪日規制を脅しにし、政府間交渉でゆさぶりをかけることだって考えられる。 中国の対日工作は周到かつ、したたかである。
ゴロゴロゴロ。その音は、両国の潜在的な軋みを想起させるものでもある。中国人の爆買に喜んでばかりはいられない。
※SAPIO2015年4月号