2月下旬の昼下がり。銀座の大通りに面した鞄屋から、こんな音が聞こえてきた。ゴロゴロゴロ。ゴロゴロゴロ。音の主はスーツケースの車輪。店頭から商品がなくなるたび、店員は裏倉庫から音を鳴らしながら持ってくる。一個5000円。文字通り飛ぶように売れていた。店員に話を聞いた。
「大半のお客様が中国からの観光客です。土産物が増えたため、手持ちの鞄に収まりきらないんでしょう」
「銀ブラ」の主役は、いまや中国人観光客である。銀座を歩けばそこかしこにスマホ片手に店を探す中国人を眼にするし、店側も中国人スタッフを常勤させる。銀座三越では、がっちり体型の中国人用に仕立てた高級スーツまで販売していた。
景気回復感が庶民の生活まで行き届かないなか、小売店舗の訪日中国人への期待は大きい。
訪日中国人の1人当たりの支出総額は約23万円(2014年、観光庁調べ)。買い物に使う金額は12万円以上という。中国人へのビザ緩和や円安がそうした状況を後押しする。
特に中国の春節(旧正月)にあたる2月下旬、中国人観光客は激増した。彼らがドラッグストアや家電量販店で手当たり次第買い漁る様子は、“爆買”と称され、ワイドショーで連日報じられていた。
財布のひもがいっこうに緩まない日本にあって、小売店舗が中国人の旺盛な購買力をあてにするのは、自然な流れだろう。だが、そうした状況を手放しで歓迎することには、少なからぬ不安も残る。