だが、言うは易しで、究極の低アルコール度数の設定が、彼女たちの中味開発を苦しめることになる。
「普通にエタノールを生成して1%のチューハイを作ろうとすると、どうしてもお酒らしい味わいにならずにジュースっぽくなってしまうんです。そこでリンゴのお酒であるシードルやアップルビネガーを加えるなど、発酵によって出てくる複雑な味わいを出すため、数えきれないくらい試作を重ねました」(同研究所・同グループの松田莉央子さん・29歳/1ページ写真左)
前出の茶木さんは3人の中でも一番お酒が弱く、試飲中に酔っ払ってしまうことも度々あったという。
「消費者調査をすると、『1%で酔うわけないじゃない』と言っていた人が250ミリリットルを飲み切ったあたりで、次第に酔ってくる様子が分かります。もちろん人によって感覚は違いますが、お酒からくるアルコール感は少なくても、お酒っぽい味がすることで楽しい気分になれる。まさに私たちの狙い通りの商品ができたと思いました」(茶木さん)
こうして完成したのが、3月10日に発売された『Butterfly(バタフライ)』である。
“ウルトラライトアルコール”の軽さを蝶になぞらえたネーミングに加え、持ちやすい250ミリリットル缶にしたのも、若者の購買意欲を誘う戦略だ。
「昔のオレンジジュースなどを知っている世代にとっては細長い缶は懐かしいと思いますが、いまの若者たちは250ml缶のエナジードリンクブームもあって、むしろ新しくでオシャレなイメージを持っています。また、お酒でも350mlは飲み切れないという女性の声も多かったので、いろんなシーンに合わせて気軽に手に取ってもらえるサイズにしました」(日下部さん)
〈気軽にいこう!アップル〉〈ゆけ、ゆけ!ジンジャー〉〈のんきに紅茶〉と、それぞれキャッチコピーをつけた3種類のフレーバーで、飲用シーンの広がりを期待している。
「普段からお酒を飲む人はちょっとした気分転換に、飲まない人やお酒が苦手な人はスマホをいじったり友達と話をしたりしながらバタフライを飲んで、娯楽や趣味の時間をより一層楽しんでもらえたら嬉しいです」(茶木さん)
ビールの消費量や飲用機会が減っていく中でチャレンジを続けるキリンの新提案。果たしてアルコール1%のバタフライで消費者の心をどれだけ“酔わす”ことができるか。
●撮影/渡辺利博