人間は、自分の行動や価値観に基づいて、他人の行動を推し量ろうとする生き物です。中国政府が、日本軍が南京で及んだと主張する行為には裏付けがない。それどころか、日本人の犯罪を後からでっちあげるべく、自らの過去の蛮行を参考にした可能性があるのです。その一つが通州事件だったと私は考えています。

 通州事件は中国人の民族性の一端を表していますが、それは100年や200年のスパンで築かれたわけではありません。紀元前500年から紀元1000年までの約1500年の中国の歴史を、北宋の学者・政治家だった司馬光がまとめた『資治通鑑』という歴史書があります。

 1万ページに及ぶこの大著の中に中国人が長い歴史のなかですさまじい拷問を編み出し、政敵や反逆者たちへの罰として、繰り返してきたことが書かれています。中国では刑は残酷であることをもって是とされ、捕らえた者をより多く、より長く苦しませなければ、逆に刑吏が罰せられました。通州事件で日本人が受けた残虐な行為は、いずれも同書に繰り返し繰り返し登場する刑罰そのものでした。

 そうした民族性は、戦後も綿々と受け継がれました。 『資治通鑑』を17回も読んだとされる毛沢東は、大躍進政策で約2000万人の農民を餓死させ、文化大革命で3000万人以上の知識人や富裕層を死に追いやりました。

 現在も、反政府の活動家や中国共産党内の不満分子に対して、人を人とも思わないようなすさまじい拷問が繰り広げられている、国家主席をはじめとする中国の指導者層は、同書に書かれていた恐怖政治を体制安定のために敷いているのです。

※SAPIO2015年5月号

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