放送法上は、NHKのトップ人事は総理大臣が国会の同意を得て12人の経営委員を任命し、同委員会が会長を選ぶという仕組みになっており、会長人事には時の政権の意向が反映される。
そこで放送内容が公平・中立を保ち、むしろ政府のプロパガンダ機関にならないことが重視されてきた。NHKはホームページで、〈NHKの行っている公共放送という仕事は、政府の仕事を代行しているようなものではありません〉と謳っている。
厳密にいえば、放送法はNHKの国際放送(国際短波放送とBS放送)に限定して総務大臣が国の費用負担で放送を要請することができる(65条)と定めており、第1次安倍政権当時の2006年に菅義偉・総務相(現官房長官)が初めて北朝鮮による日本人拉致問題を短波で放送するように「放送命令」を出した。
そうしたケース以外、政府が番組の内容に口出すことはできないし、菅官房長官をはじめ政権側もそのことはよく分かっている。
ところが、籾井氏は記者会見(2月5日)で、戦後70年に向けて慰安婦問題の番組を放映するかを質問され、「政府のスタンスが見えないので放送は慎重に考える」と発言した。
旧日本軍の朝鮮人慰安婦の“強制連行”問題については、火を付けた朝日新聞が報道は虚偽だったと認めた一方、アメリカをはじめ国際社会では“性奴隷”という一方的な誤解が進んでいる。
安倍政権の方針がどうであれ、自主的な判断で検証番組をつくるべきだろう。それにもかかわらず、籾井会長がわざわざ放送内容に政府方針を忖度することを認めたことは、NHKに「政府の方針に沿った放送」をさせ、政府のプロパガンダ機関にすることが自らの役割だと大きな誤解をしていると見られても仕方がない。
※SAPIO2015年5月号