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東京の受動喫煙対策 飲食店の分煙努力は軽視されていないか

 東京都が2020年のオリンピック開催にあたり、有識者ら委員を集めて「受動喫煙防止対策」の在り方を議論してきた検討会。

 昨秋から月1回行われてきた会合は、今年3月30日の5回目を最後に「提言」としてまとめる予定だったが、一部の委員から異論が相次いだために結論は先送り。再び会合を開いて審議にかけようという異例の事態となっている。

 結論が持ち越された理由は明白だ。

 12人のうち7名を占める医師会やがん対策団体など医療関係者の主張はただ一つ。屋内・屋外にかかわらず “全面禁煙”に向けた規制づくりである。検討会でもたばこによる健康被害の報告に多くの時間が割かれた。そして、罰則付きの条例を制定して、飲食店やホテルなど屋内施設をすべて禁煙にせよと訴えている。

 検討会の座長である安念潤司氏(中央大学大学院法務研究科教授)は度々、「地方自治体が独自に条例化するには詰めなければならない問題も多すぎる」として、まずは分煙対策の現状推進や施設事業者に対する財政支援などが必要だと説いてきた。

 しかし、委員の“多数派工作”に押し通された格好になったことで、座長のとりまとめ案である〈2018年までに条例化を見据えて受動喫煙防止対策を再検討すること〉も、「あいまいな提言ではなく条例化をはっきりうたうべき」とダメ出しされてしまったのである。

 最大の問題は、毎検討会で意見聴取としてヒアリングを行ってきた飲食店やホテル、旅行など関連団体の担当者による現場の声、いわば代表的な「民意」が軽視されたことにあるのではないか。

 そこで当サイトでは、意見陳述を行った各団体に改めてコメントを求めたところ、次のような切実な叫びが聞こえてきた。

「ウチの組合には小さな飲食店が多く、完全分煙すら不可能に近い店がほとんど。これが条例により強制されれば、禁煙にせざるを得ずに設備の整った大手に人が流れてしまうのは明らか。検討会でもそのことを話しましたが、委員の方から『禁煙にして売り上げが落ちたデータはあるのか?』と逆に質問され、深刻に捉えてもらえませんでした」(東京都飲食業生活衛生同業組合)

「意見聴取には医師会の関係者も呼ばれ、独立した喫煙ルームを設置する大手ファミリーレストランの画像を見せながら、扉の開け閉めによって煙が漏れているというデータを示していました。それを言ったら受動喫煙の対策は何をやっても効果がなく、完全禁煙しか道はなくなることになります」(日本フードサービス協会)

「日本の受動喫煙防止対策は諸外国と比較して遅れているといわれていますが、外国人観光客を対象に行った調査では、非喫煙者からも日本は喫煙環境やマナーに優れ、屋内でも屋外でも概ね満足できると評価する声が集まりました。その結果は検討会で出しましたが、現状を飛び越えて是々非々を問う制度づくりを急いでいる印象を受けました」(日本旅行業協会)

「ホテルや旅館はすでに部屋単位だけでなく、フロア毎に喫煙・禁煙と分けている施設が多く、すでに分煙に対する意識は浸透しています。フロントに喫煙スペースを設けるところも増えていますしね。これが一気に完全禁煙になってしまうと、お客さんは確実に減ってしまいます」(東京都ホテル旅館生活衛生同業組合)

 各団体に共通しているのは、自主的な分煙など受動喫煙防止対策の努力がまったく評価されていないという憤りだ。

「われわれは検討会が始まる数年前からフロア分煙や時間分煙などを表示した6種類のステッカーを作成して全加盟店に配布。お客さんに分かりやすく表示するよう促しています」(東京都飲食業生活衛生同業組合)

「外食事業者も確実に分煙の意識が高まり、自主的な取り組みの輪も広がっています。そうした努力がさらに進むよう自然な対策を望みます」(日本フードサービス協会)

 なによりも、今回の検討会は来たる東京オリンピックを見据えていることを忘れてはならない。日本旅行業協会関係者はこんな意見を述べる。

「日本の受動喫煙防止対策は、分煙意識の高まりとともに世界的にいっても高いレベルにあり、むしろ評価されて然るべきだと思います。また、オリンピックを控えて『おもてなし』を考えるのであれば、喫煙者・非喫煙者のどちらか一方だけを選ぶことが良いサービスなのでしょうか。双方のお客さんに満足いただける環境を整えることが、本当のおもてなしだと思います」

 オリンピックの開催で日本を訪れる外国人旅行者は2500万人ともいわれ、当然、喫煙者も多数含まれる。東京都ではそうした外国人の受け入れに向けた宿泊・飲食施設の分煙モデル事業を支援するため、4月から予算をつけている。

 そうした地道な受動喫煙防止対策に水を差す「完全禁煙化」の極論は、せっかく進んだ分煙技術や喫煙マナー向上をも根底から崩しかねない。

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