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満州からの引き揚げ、獄中結婚、夫の死…加藤登紀子が語る半生

 獄中結婚した夫と死別してから13年。現在、「おひとりさま」の加藤登紀子(71才)は100才の実母・淑子さんと同じマンションに暮らし介護に励む日々を送っている。彼女が歌手として、そしてひとりの女性として、困難に負けずにずっと走り続けてこられたのは、その母の支えがあったからだ。歌手デビュー50周年という節目を迎えた彼女に厳しくも輝かしい半生を振り返ってもらった。

 加藤は1943年12月27日、旧満州(現在の中国東北部)ハルビンで満鉄社員の父と洋裁の得意な母の間に末っ子として生まれた。淑子さんは誰とでも真摯に向き合う女性だった。終戦直後、ソ連軍が満州で略奪行為をしていたことがあったという。

「ソ連軍が怖くて日本人が逃げる中、母はひとりソ連軍の司令部に乗り込んでいきました。そして『こんな乱暴を働いているのはおかしい』と訴えたそうです。司令部は母の進言を受け入れて略奪行為を取り締まりました。母は、どんなときでもきちんと相手と向き合う強さを教えてくれました」

 まもなくして一家は日本に引き揚げた。淑子さんは洋裁店で働き家計を支えた。数年後に加藤の父が突然、ロシア料理店をオープンさせると、その店を手伝うようになった。加藤が当時を振り返る。

「母はデザイナーになって自分の洋裁店を持ちたかった。でもその夢は家族のために捨てざるを得なかった。そこに複雑な思いがあったのでしょう。父に翻弄された人生だったからこそ、そうした言葉を私に伝えたんだと思います」

 母のその言葉通り、加藤は自分らしく生きた。都立駒場高校からストレートで東京大学に進学。在学中の1966年に『誰も誰も知らない』で歌手デビューを果たした。現役東大生の歌手デビューは当時、衝撃的だった。

 一方、その頃全国各地で大学紛争が激しさを極めていた。加藤は、反帝全学連副委員長だった藤本敏夫さん(享年58)と出会い、交際をスタートさせた。学生運動が激化していくにつれ、警察は藤本さんへのマークを厳しくしていった。結局、藤本さんは1972年4月、公務執行妨害などの罪で逮捕、懲役3年8か月の実刑を言い渡され、中野刑務所に収監された。周囲が交際に反対する中、淑子さんだけは違った。悩む加藤にこんな言葉をかけた。

「あの人は、あんたのお守りさんやから交際を続けなさい」

 淑子さんの言葉が後押しとなり、ふたりは獄中結婚。このとき、加藤は長女を妊娠していた。1974年に藤本さんが出所すると、加藤は次女、三女を出産し、3人の子供に恵まれた。その後は母と歌手という二足のわらじを両立させるため奮闘した。

 どうにもならないほど忙しい時、家事・育児を手伝ってくれたのはやはり淑子さんだった。

 生活が落ち着き始めると、藤本さんは食と農をテーマにした活動を始め、多目的農園『鴨川自然王国』(千葉県鴨川市)を1981年に設立した。

「東京から千葉に家族全員で移り住む予定でしたが、私が子供の世話をして東京に戻って仕事をするという二重生活は現実的に厳しかった。彼を説得して離れて暮らすことを選択しました。彼は鴨川、私と子供は東京。離ればなれに暮らすことで家族の絆はより深まったと思います」

 加藤が「別居」を選んだことも「自分のやりたい道を選びなさい」という淑子さんの教えがあったからに違いない。

 幸せな結婚生活を送っていたふたりだったが、藤本さんは肝臓がんを患い、闘病の末2002年に亡くなってしまった。

「好きなように生きたい者同士が一緒にいたんだと思います。そうしたスタイルでもうまく結婚生活を続ける方法を探した。そんな夫婦だったと思います」

※女性セブン2015年4月23日号

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