「私が予備役として訓練を受けていた1990年頃、陸軍中佐としてベトナム戦争に参戦した教官から『芸能人慰問団は部隊に長期間留まり、軍人相手に性的な接待を行っていた。彼女たちは“慰安隊”として戦地に送り込まれていた』と聞かされました。主な相手は将官クラスでしたが、一般の兵士たちにもその順番が回って来ることがあったそうです」

 金氏は、芸能人慰安隊結成の背景を次のように解説する。

「軍事政権下の韓国で、大統領府と芸能界は密接な繋がりを持っていました。朴政権は芸能人を政治宣伝に利用し、芸能人側も政権に擦り寄ることで自身のポジションを確保していた。いわば持ちつ持たれつの関係だったのです。

 そこに目を付けた朴大統領は、慰安所設置に比べてコストが安上がりな女性芸能人の利用を思いついた。もちろん、彼女たちの多くはベトナム派遣を嫌がりましたが、拒否すれば芸能界追放は免れない。慰安隊結成の裏には大統領府による暗黙の強制があったと見て間違いありません」

 当時、19歳でベトナムに派遣されたある人気歌手は、韓国のテレビ局KBSの報道番組でこう証言している。

「政府にベトナム行きを命じられた芸能人は『渡航時に何があっても政府にはいかなる瑕疵もない』との覚書を書かされました。慰問はお金にもならず、誰もが嫌がっていた」

 彼女の口から「性接待」について語られることはなかったが、派遣前にステージを放り出して逃げだす者もいたという証言からすると、やはりこの慰問団は特殊な性格を帯びていたことが判る。

 半ば強制的にベトナムに派遣された彼女たちもまた、韓国軍の被害者だったのではないか。

※SAPIO2015年6月号

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