習近平は今年4月の日中首脳会談で、安倍首相の戦後70年談話について、「日本はアジアの隣国(の気持ち)に配慮して、真面目に対応し、歴史を積極的に正視する対外的なメッセージを出してほしい」と強調した。
これは安倍談話にも戦後50年の村山談話や同60年の小泉談話で触れた「植民地支配と侵略」「心からのお詫び」などの表現を入れるよう間接的に求めたものだ。
習近平が安倍談話の内容を重視するには理由がある。同筋は次のように指摘する。
「江沢民時代の村山談話と胡錦濤時代の小泉談話で言及されている『侵略』と『お詫び』が、安倍談話で触れられていないとなれば、習近平の日本への影響力不足を露呈することになる。つまり、メンツを潰されることを意味する。ひいては、習近平の国内での政治基盤の弱体化にもつながりかねない」
それを象徴するのが6月下旬からの株価暴落に対する株式市場への露骨な介入や、7月上旬からの人権派弁護士や活動家ら100人以上の身柄拘束だ。中国の今年の経済成長率は目標の7%達成が危惧されるなか、株価暴落によって経済成長の鈍化が加速されれば、国民の不満が一気に爆発することになりかねず、習近平政権の権力基盤が大きく揺れるのは間違いない。人権派弁護士らの摘発は、その芽を摘むことを意味する。
中国共産党は盧溝橋事件78周年記念日当日の7月7日まで2日間にわたって、1949年10月の共産党政権創設以来初めて「群団工作会議」を行った。会議には青年団や労働組合、婦人会、障害者団体、大学組織、工商団体、作家協会、社会教育機関など中国社会のさまざまな末端組織の代表が出席。
習近平は「中国の夢」の実現のために、中国の人口のなかでも数億人を占めるこれらの団体構成員が一致団結して「政治性や先進性、大衆性を強化しなければならない」と強調した。会議は党政治局常務委員7人が勢ぞろいした「最重要会議」で、民衆の思想・イデオロギー統制の強化が目的であることは明らかだ。
中国では少なくとも年間23万件、1日当たり630件以上の集団暴力事件が発生しており、対外的にも南シナ海情勢で対米関係が悪化するなど、国内外でさまざまな問題が噴出している。このようななか、習近平は国内情勢安定のために日中関係の行方にも気を遣わなければならないだけに、彼の苦悩の呻き声が日本にまで聞こえてきそうだ。
※SAPIO2015年9月号