6日の朝刊時点では生産者の声にまったく触れていなかった産経新聞が、翌日刊で「関税は致し方ないが、『食の安心・安全』や『投資家と国家の紛争解決(ISDS)条項』など、非関税障壁の部分の具体的な内容が分からず、脅威を感じる」という神奈川県の畜産農家の声を紹介していた。
例えば「食の安心・安全」については、各国間で異なる添加物や残留農薬の基準をどうするか、自給率についてはどう考えるのか、いまだ十分な検証・説明はされていない(ちなみに「ISDS条項」とは、自由貿易協定を結んだ国家間で不当に外国の企業に対する差別が行われた場合、企業が他国の政府に賠償請求の訴えが起こせるよう、定めた条項を指す)。
TPP全31の分野のなかでも「食」にまつわる分野は消費者にとっても身近な話だ。衆目は集まる。そのなかで何がどうなるか、具体化された検討項目や課題について、建設的な議論を積み重ねる。国民の合意形成はその先にある。
中国の『史記』には「忠言耳に逆らう」という言葉がある。「忠告の言葉は、とかく聞く人の感情を害して受け入れられにくい」(大辞林)という意味だ。だが、アメリカでケネディ及びジョンソン政権時代に国務長官を務めたディーン・ラスクはこんな言葉を残しているという。
「人を説得する最良の方法のひとつは、自分の耳を使うこと――つまり、相手の言うことに耳を傾けるのだ」と。
誰が誰の話を聞き、誰を説得するのか。TPPはここからが本番だ。