2011年の秋華賞を勝ったアヴェンチュラが好例です。2歳時の阪神JF4着のあと軽い骨折があり、春はまったく走らせませんでした。骨折と聞くと大事に思えますが、若駒の場合、小さな剥離骨折は結構あります。見過ごしてしまうようなケガですが、そのときにすぐにレントゲンを撮ってケアをしてやる。
すると馬は人間を信用します。「分かってくれたんだ」と頼りにしてくれるんですね。若いうちにそういう関係ができあがると、その後がぐっとやりやすくなります。牧場から完成された状態で戻ってきました。秋華賞から逆算して、北海道のシーズンを使いました。
7月30日函館の漁火S(1600万下、芝1800m)、8月14日札幌のクイーンS(GIII芝1800m)を勝っての秋華賞でした。2か月半で3勝です。
アヴェンチュラはちょっと背中が長い。ジャングルポケット産駒の特徴でもあるのですが、いわゆる「背たれ」の傾向があり、背中に疲労が溜まりやすい。能力はGIクラス、3歳年上でオークスを勝った全姉トールポピーよりも上と目されていたので、そこを注意しました。牧場との連携が上手くいった馬です。
しかし残念ながら、やはり背中の痛みが治らず、次のエリザベス女王杯まででした。3歳での引退です。どんな馬でもウィークポイントを持っていて、成長するとよりウィークポイントに負荷がかかることがあります。強い馬ほど、他の部分がパワーアップするので陥りやすい。難しいところです。
今年はトライアルのローズSで3着に頑張ってくれたトーセンビクトリーが出走予定です。トゥザヴィクトリーの子ですから、もちろん素質はありますが、身体の線が細く、気性が強すぎる馬です。体調とメンタルの折り合いが最大のテーマになりますが、人気もそれほどなさそうなので密かに楽しみにしています。
※週刊ポスト2015年10月30日号