──ただ、これだけ長年にわたってこじれてきた問題なだけに、一部では「被害者もすでにかなり高齢なのだし、放っておけばいい」と考える人もいるように思います。

松竹:これは本でも紹介していますが、例えば何百年も前のヨーロッパの植民地支配時代のことが、21世紀になって問題視されたりしています。数年前にも、英国のキャメロン首相が英植民地時代のインドで起きた虐殺事件に「遺憾の意」を示したというニュースがありましたよね。不当に支配されて貶められた人たちの民族的な記憶というのは、やはり時間が経っても残っていってしまうのではないでしょうか。

 韓国でも、仮にこのままの状況で元慰安婦の女性たちが全員亡くなってしまったとしたら、人々の間には「日本が何の償いもしないまま、彼女たちは恨みの中で死んでいった」という記憶だけが残ってしまうでしょう。それは日本にとっても決していいことではない。

──それは、単に人道的な意味からだけではない、という考えですね。

松竹:そのとおりです。日韓は他にもさまざまな歴史問題を抱えていますが、その中でも慰安婦問題はもっとも重要な問題として認識されています。ここで何らかの合意をつくることができれば、他の問題での議論や交渉においてもいい影響を及ぼすことができるはずで…それは、とても大事なことだと思うのです。その意味でも、首脳会談で「妥結を目指す」という共通認識ができたことは、非常に大きな一歩だと思います。(続く)

◆松竹伸幸(まつたけ・のぶゆき):1955年長崎県生まれ。一橋大学卒。ジャーナリスト・編集者。かつて日本共産党政策委員会で安全保障と外交を担当する安保外交部長を務めるも、自衛隊に関する見解の相違から2006年に退職。現在は、「自衛隊を活かす会」、正式名称「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」(代表は元内閣官房副長官補の柳澤協二氏)の事務局も担っている。

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