第5週や第6週の放送で、山王寺屋の夜逃げや、新次郎のお妾問題がありました。はつやあさの心情にただ寄り添うと、暗く沈んだ声で語りがちでした。
でも、実際の放送を見ると、つらい場面で語りまで暗くなると、救いようがなくなってしまうなと感じたんです。誰でも朝から暗い気持ちになりたくはありませんよね。だから、どんな場面でも、それがたとえ、この先どうやって生きていけばよいのかわからないようなしんどいシーンでも、声の奥底に希望や夢をにじませて語っていこうと決めました。
「今は大変だけど、辛抱して乗り越えたら、きっと幸せが待っているから」──そんな優しく見守るような気持ちですね。そうすれば、視聴者の皆さんにも、ヒロインたちを一緒に応援しながら、ご自身の一日を気持ちよくスタートしていただけるのではないかと思ったのです。
放送が進むにつれて、あさの義父の正吉や五代友厚など、あさにとって大切な人たちが亡くなっていきましたよね。その時も、「志を継いで頑張る」という思いをにじませて語りました。
正吉が亡くなったときに《正吉のいなくなった加野屋に、また新しい朝がやってまいりました》という語りがありました。このときも「あさは今、悲しみの中だけれど、託されたものを受け止めて、これからしっかり歩いて行ける。きっと彼女は大丈夫!」という思いを込めました。
このドラマには、ヒロインたちが子供から大人へと成長し成熟していきますので、自然に私の語り口や声質も変わってきました。子供時代には、明るさや元気さをストレートに表現しましたが、親となり社会的な責任も増えた今は、語りの中に人としての深みや味わいも表現したいと思っています。
ドラマも佳境に近づいてきました。あさと千代の親子関係が見どころのひとつです。私も娘を育てながら仕事を続けてきましたので、あさの気持ちに重なる部分があります。
一方で、千代を見ながら、わが娘の気持ちを想像することもあります。それを語りで表現できるのは、おもしろいですね。
※女性セブン2016年3月24日号