国内

文系学部全廃論 5割以上大学進学の意味を考えれば当然

大学の文系学部は廃止すべきか否か

 世の中にはおかしなことが様々なことがあるが、評論家の呉智英氏が最近おかしいと感じたことは何か。同氏は、大学の文系学部廃止反対論に異議を唱える。

 * * *
 室井尚『文系学部解体』(角川新書)が話題になっている。文科省の目指す「役に立つことだけを学ぶ大学」によって「文系学部の解体」が進み「大学はこのまま終わるのか」と怒りを表明した本だ。かねてより文系学部全廃論を唱えている私としては愚論としか評しようがない。十八歳人口の五割以上が大学へ進むという歴史上かつてない時代が到来している意味を、室井は全く理解していない。

 私は「役に立つ」工学系大学で「役に立たない」一般教養を長く教えてきた。テーマは『はだしのゲン』である。むろん、平和教育なんていう役に立つことは全く教えない。M・バークン『災害と千年王国』だの荻生徂徠『論語徴』だの、何の役にも立たないことばかり講義する。

 多くの学生は困ったなぁという顔で聞いているのだが、時々目を輝かして聞き入る学生がいる。しょうがないので講義の後喫茶店に誘い(私のおごり)、あのなぁ、俺の講義を面白がるのはいいけど、面白いことで飯は食っていけんのだよ、ちゃんと電気工学の勉強しろよ、と説教する。

 室井尚の授業は正反対だ。学生にアドルノ&ホルクハイマー『啓蒙の弁証法』を読ませるというのだ。知りあいのドイツ人学者に聞いたが、アドルノはドイツ人でも難しいデス、と言っていた。アドルノらは衒学(げんがく)左翼とでも評すべき難物思想家なのである。それなのに一人の女子学生は「完璧な要約を書いてきた」。

 ところが彼女は「地元の信用金庫」に就職を決めた。私なら胸をなでおろして喜ぶのだが、室井は「もっと自分の能力の活かせる職場に挑戦しないか」と残念がるのである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン