だが、取材後の昨年10月28日、姜氏は仲間の董広平(ドングアンピン)氏とともにオーバーステイ容疑でタイ当局に拘束され、翌月に中国へ強制送還された。二人はすでに国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の難民認定を受けていたが、それを無視しての送還だった。
「姜氏は亡命後、習近平を風刺するコラージュをネット上に発表していました。中国政府はこれを許さず、タイの軍事政権に圧力を掛けたのではないでしょうか」
バンコク在住の亡命中国人・韓学鋒氏(仮名)は言う。送還の2週間後、中国国営放送CCTVが、囚人服姿の姜氏と董氏が「罪」を認める動画を大々的に放映した。
「習近平批判という罪状の重さや、過去の姜氏が受けた拷問から想像するに、睡眠を与えられず、肉体的に痛めつけられた上で撮られたように見えます。裁判すら経ない『晒し者の刑』です」(韓氏)
習近平政権の成立以降、中国は海外に強力な密告網を敷き、経済関係をエサに各国の現地当局へ圧力を掛ける動きを強めはじめた。政治・軍事・経済の各方面で中国が圧倒的に優位な立場にある周辺諸国に対して、この傾向は特に露骨だ。
昨年7月、タイ当局は国内にいた少数民族ウイグル人の亡命者約100人を、中国に強制送還した。在外民主化人士の拘束や失踪も目立つ。姜氏の受難もまた、そんな中国の動きがもたらしたものなのである。
●やすだ・みねとし/1982年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部(東洋史学)卒業後、広島大学大学院文学研究科修士課程修了。在学中、中国広東省の深セン大学に交換留学。主な著書に『知中論』『境界の民』など。公式ツイッターアカウントは「@YSD0118」。
※SAPIO2016年6月号