「もちろん、すでに体の自由が利かなくなった親を放り出すのはひどい振る舞いだし、現実的には難しい。だから子供はそういう事態に陥る前に、親との関係に決着をつけておく必要がある」(島田氏)
生物学的にいえば、自立した子供が親を捨てるのは当たり前のことだ。進化によって生物は複雑な形態をとるようになり、人間に至ってはまったく無力な状態でこの世に生まれてくる。それでも子供はやがて成長し、大人になっていく。
「今の成人式は意味不明なものになっていますが、かつては日本の社会でも“親捨て”“子捨て”が行なわれていた。例えば地域の若者たちは一定の年齢になると家を離れ、『若者組』のなかで生活しました」(島田氏)
家制度の中でも、長男は将来その家を背負う者として厳しく育てられ、親に甘えることは許されなかった。そして次男以下の男子は、家に残れば「部屋住み」としての一生を余儀なくされるため、自ら家を出るしかなかった。
「戦後になっても、多くの若者たちが“上京”という形で親から離れていきました。ところが今や状況が一変。都会に生まれた若者には上京という選択肢はなく、就職後もなお実家暮らしを続けてしまう。非正規雇用で賃金が低いため実家を出ていくことができず、結果、生涯未婚率が増加。いったん家を出たものの、仕事を辞めて実家に逆戻りするケースもあります。
いずれも親の経済力に頼っているので、親が高齢になって働けなくなれば、子供は親の年金をアテにせざるをえない。行き場がないなかで親が要介護状態に陥れば親子共倒れになり、子供は完全に追い詰められて介護殺人予備軍になってしまうのです」(島田氏)
※週刊ポスト2016年6月17日号