寮長として、若い選手の指導に当たる池田が彼らに求めるのは、「当たり前のことを当たり前にやる」意識だけだ。
「部屋を出るときは電気を消す。人に会ったら挨拶をする。普通のことを普通にやればいい。あとは、社会人として周りに迷惑をかけないこと。事件を起こして、選手生命を絶たれることが一番馬鹿らしい。だから“美人局”と書いて、何と読むかってことから教えている。今の若い子たちは知らないんだよ」
選手たちの未来の可能性について話す池田の姿は好々爺そのもの。だが、トレーニングコーチ時代には「鬼」と呼ばれたほど血気盛んだった。
「60歳を超えてだいぶ丸くなった。ときどきカーッとなって怒ることがあるけど、自分では『まだ元気だな』って嬉しくなるよ。いつまで続けられるか? それは運命でしょうね。球団のほうから、辞めてくれといわれるまでは続けたい。自信があるうちは投げ続けたいね」
最後に今欲しいものを尋ねると「緊張感」という答えが返ってきた。
「緊張感のない人生ほどつまらないものはないから。ただ、いま緊張感をもって生きている若い人に話しても理解してもらえない。年を重ねて、人生から緊張感が失われて来た時に、初めてその大事さに気づくんだなァ」
球界最年長の古希の打撃投手は、これからも若手を育てるために、そして自らの人生に緊張感を求めるために、黙々とボールを投げ続ける。(文中敬称略)
◆いけだ・しげき:1946年5月1日生まれ、大分県出身。津久見高2年時に甲子園出場。1学年上の高橋直樹(東映など)がエースだった。卒業後、日本鉱業佐賀関に入社。1967年ドラフト4位で大洋に入団。1970年オフにロッテへトレード移籍。1977年に引退した後はロッテのコーチに就任。現在は浦和のマリーンズ寮・寮長兼打撃投手。生涯成績は13勝12敗、防御率3.53
取材・文■田中周治 撮影■藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年7月8日号