日本の夏は湿度が高くて厳しいものですが、馬にとっては悪いことばかりではありません。冬に硬くなりやすい馬は、汗をかいて筋肉がほぐれ、よく走ります。
馬は人間を含めた動物の中でもっとも大量に汗をかき、大量に水を飲みます(日に30リットル以上!)。つまり水分循環に優れている。栗東の水は美味しいといわれていますが、ウチでは専用の機械を通して水素水を飲ませています。
ゴクゴクと水を飲んで上手に汗をかける馬は熟睡できて、夏バテしません。よくパドックの様子で「発汗が心配」といわれますが、夏に汗をかかない馬はダメです。
夏に強い弱いは性格的なものもあって、牡の大型馬は意外と神経質です。「夏負け」と言って、体温調整ができずに睾丸が腫れ上がったり、目の周囲の毛が抜けたりすることもあります。この時期には水にさらに電解質の成分を入れます。水を飲まない馬にはゼリー状にして食べさせ、輸送中に食欲が落ちる馬には静脈注射をします。
煩雑なことが多くなる時期ですが、工夫した先には馬の成長がある。そう思うと夏の暑さは楽しみでさえあります。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位(2016年6月19日終了時点)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、馬文化普及、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、ラキシス、サンビスタなど。
※週刊ポスト2016年7月8日号