■寝室は別、契約結婚のようなもの
お兄さんは、就職したものの人間関係が上手くいかずにすぐに辞め、その後、いわゆる引きこもり状態だったそうです。フリーのプログラマーで、株もやっていて、年収1000万円以上の収入を得ているということでした。フリーだから安定はしていない、でも、それだけ儲ける能力があるのはスゴイ、と思いました。私、本当に、必死でしたから。
とはいえ、そもそも、その人が結婚を望んでいるのだろうか? って思いますよね。生身の女を、それも40を過ぎたオバサンをって……。
弟クンが協力してくれて、一度、お兄さんと会うことになりました。第一印象は、絵にかいたような「オタク」。明らかに運動不足な体型。ただ、プログラムの話や株の話を振るとけっこう喋る。私にはちんぷんかんぷんだったけど、仕事が好きなんだなということは伝わってきました。
私には失うものがないと思っていましたから、素直に話したんです。41歳で派遣をしていて、将来が不安なこと。これまで、なかなかうまくいかなかったこと。働く気はあるけど、いつ首を切られるかもわからないこと。家事全般はするし贅沢するつもりはない、ただ、何か生活の基盤がないと不安で仕方がないんだということ……。
喋っているうちに、自分が哀れで、可愛そうになって、涙があふれてきました。たぶん、彼――今の主人ですが――のことを何とも思ってなかったから、泣けたんだと思います。彼はずっと無表情で、慰めてくれたり、気の利いたひと言を発するなんてことはありませんでしたが、私の涙が落ち着いたころ、「今度、手料理を作ってくれませんか」と言いました。
全くトキメキはなかったから、結婚してほんとにいいのかな、という迷いがなかったわけではありません。でもそれ以上に、一人で生きていくことのしんどさを感じていました。私に頼れる親がいたり、自分の体力に自信があれば、派遣でも貯金がなくても、また別の選択をしたかもしれない。でもあの時の私には食べさせてくれる人が必要でした。
今、ドラマ(『逃げるは恥だが役に立つ』)で話題の、契約結婚みたいなものかもしれませんね。寝室は今も別です。ガッキー(新垣結衣)と星野源のような美男美女じゃないから、この先、私たちに愛が生まれるのかるどうかはわかりませんが(笑)、「愛」ではなく「必要」で結びつく夫婦がいてもいいのかな、と思っています。見栄や世間体で結婚する人よりは切実なぶん、マシなのではないかとも。主人が本当のところ、私をどう思ってるかはわかりません。でも主人のご両親は喜んでくれていますし、主人の健康のためにもいまは料理を頑張っています。
同世代でまだ独身の友人に主人の写真を見せると、露骨に「え、妥協したんだ」「私にはできないー」と言われたりもします。一方で、住んでいる場所やマンションの話をすると、「すごくラッキーだね」とか「一発逆転だね!」と羨ましがられるんですよ。そんな周りの反応を楽しむ余裕がいま、自分にあることが、嬉しいです。