──北方領土返還交渉で注目されているプーチン大統領もまた強権的だ。
三浦:プーチンが強権を発動できるのも、民意の負託があるからです。エリツィン時代はひたすらアメリカの世話になりながら、プライドを捨てて頑張ったわけですが、鬱憤が溜まったところでプーチン現象とでも呼ぶべき現象が起きた。
拙著『シビリアンの戦争』(岩波書店)でも述べましたが、民意に基づく戦争をし、民意に基づく軍事外交を取り仕切ったパターンです。
木村:ウクライナ危機についても、ロシアが“侵攻”したクリミア半島はロシア系住民ばかりで、あれはロシア領だと思う。そういうロシア国民の民意がプーチンを後押ししている。
広大な国を治めるには、強権政治にならざるをえない。その意味で非常にロシア的な指導者です。トランプは国外の紛争から手を引くと言っているから、クリミアも「どうぞ」となると思う。
三浦:じゃあ、シリア難民も無視されると?
木村:そうです。「ポリコレ」(※注/ポリティカル・コレクトネスの略。政治的・社会的に正しく、差別・偏見が含まれていない言動)は脇に置いて、“もう反アサド派は支援しないから、ロシアはアサド政権と適当にやってよ”ということになるのではないでしょうか。
「アラブの春」も、「民衆の蜂起は正義」というポリコレでオバマは介入して、結果、混乱させただけです。
──難民問題に揺れる欧州でも独裁者が生まれる土壌が醸成されつつあるのか。
三浦:アメリカより欧州のほうが移民に対する免疫がなく、耐え切れていない感じです。ドイツのメルケル首相も自分の難民政策に後悔していると言い始めている。イギリスもEU離脱を決定してしまったし。
だから、次のリーダーは、移民排斥を訴えて出てくるでしょう。フランスでは、国民戦線のマリーヌ・ルペンが勝つ可能性がある。より危ないのは東欧です。人種差別の歴史が長く、民主主義の歴史が浅く、寡頭支配で、とんでもないのが出てくる可能性がある。
木村:こだわるようですが、欧州もアメリカと同様にポリコレに疲れた。東欧出身のメルケル自身が建前の教育を受けてきて、「困っている人を助けるのは美しい」という価値観を持っていた。ところが現実は違って、必ずしも善良ではない人間も入ってきてしまった。
いずれにせよ、今後はポリコレにこだわらない指導者がどんどん出てくる。それを独裁者と呼ぶかどうかはわかりませんが、建前論を振り回さず、やるべきことをやっていく人を民衆は求めていくと思います。
●きむら・たろう/1938年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。NHKで記者、キャスターを経て、フリーに。フジテレビで数々の報道番組のキャスター、コメンテーターを歴任。
●みうら・るり/1980年生まれ。東京大学農学部卒、同法学部政治学研究科修了(法学博士)。東京大学政策ビジョン研究センター講師。著書に『日本に絶望している人のための政治入門』(文春新書)など。
※SAPIO2017年1月号