それでも笑いは忘れない。共演者や視聴者に「ボケたと思われているかも?」と心配になったのだろう。言いながら、左手でスーツの前を合わせ直すように、ボタンの横を軽くつかんでいた。
人はストレスやマイナス感情を抱くと、無意識のうちに手が動き、緊張を解いて気持ちをなだめ、安心感を得ようと、何かを触ったりいじったりする。顔や腕、首筋に触るというだけでなく、髪をくるくると指に巻きつけたり、袖口を触ったり、指輪や腕時計をいじったりする仕草がそうだ。
何度か見せたスーツの前をつかむ仕草は、有田にとって緊張や不安を和らげる1つの手段なのだ。
有田には、ストレスを感じた時、身体の前で組んでいた手をもんだり、左手で右手首を触ったりつかんだりする癖もあるようだ。結婚の決め手について話している時は、何度も手首をつかみ直したし、知り合ったきっかけを「合コン」と言いながら笑った時は、手をもみ合わせていた。
さて、このような仕草を見ても、違和感や不自然さを感じる人は少ないと思う。ここが、芸能人や政治家など、人目につく職業の人々の仕草の巧妙なところだ。
有名人ともなれば、自虐ネタならともかく、人前で、緊張や不安、ストレスを感じているところなど見せたくないはず。当然、ストレスやマイナス感情を和らげようとしているなんて、知られたくないだろう。だから彼らは、意識的か無意識的にか、一見しただけは気づかれない、何気ない仕草で安心感を得ようとするのだ。
そんな目立たない仕草で、自身の緊張を和らげようとした有田だが、御両親への挨拶について聞かれると、照れ隠しのわざとらしいギャグとともに、組んでいた手が少しずつ上へと上がった。組んだ手の位置が上へと上がるのは、感じている感情が強くなっていくからだ。そんな感情の動きに動揺したのか、わずかに背を反らして息を吸うと、膝をゆるめて身体を揺らした。思い出しただけでこの反応とは。御両親への挨拶は、きっとこれまでにないほど緊張したのだろう。
笑いや流れがうまくいった時など、後ろ手に組んで立ち、あごをちょっとだけ上に向けた余裕の表情で、自信や優越感を垣間見せることのある有田。そんな仕草もこの時ばかりは影を潜め、自分が「もらっていただく感じ」と謙虚に話していた。さすがのモテ男も、殊勝な一面を見せた一瞬であった。