──春から大学生になる人は初めて働く人も多いと思います。初めてのアルバイトで注意しないといけないことはありますか。
上西:私の観測経験からすると、まず通っていた塾の講師アルバイトは要注意です。お世話になった塾の人から「今度はあなたが教える番ね」と言われて引き受けてしまうのですが、塾は担当する授業が決まっていて、なかなか人に代わってもらえません。結果、大学の授業の出席や学生生活に影響が出てきます。まだ自分の大学生活がどうなるかはっきりしない入学前の段階で塾や個別指導のバイトを始めるのはお勧めできません。
あとは居酒屋などの深夜バイトですね。深夜は割増賃金で時給も高く、授業ともバッティングしないので選ぶ人も多い。でも大学1年生は必修の授業も多く、語学は朝イチであることも多いです。深夜に働いて朝起きられないリズムができてしまうと、単位が取れずに進級できなくなる恐れもあります。
──逆に最初はこのバイトがお勧めというのはありますか。
上西:正社員が複数いて、開放性がある職場は重要ポイントだと思います。飲食店で店長1人だけ正社員といった事例だと、良い人だった店長から新しい店長に代わって、シフト強要やパワハラなど職場が一変することも珍しくありません。また控え室など密室性がある場所では、パワハラやセクハラも起こりえます。
なので個人的には、スーパーのレジ係とか、大きめの本屋のレジ係とか、職場に常時正社員が複数いて、組織としても労務管理がしっかりしているところがよいのでは、と思います。ただ学生は同世代と一緒に働きたい、おばさんたちと一緒はちょっと……と思うかもしれませんね。
昔は塾講師や家庭教師のアルバイトが短時間で高収入が得られましたが、今は時給1200円程度で、採点業務などを授業時間外にタダ働きを求められることもあるので実際は他のバイトより時給が低いときもあります。
──コンビニのアルバイトなのに、恵方巻きの販売をノルマとして課され、売れ残ると商品の買い取りを強制されるなどニュースにもなりました。アルバイトなんだからそんなの拒否して辞めてしまえばいいのにと思うのですが。
上西:そうしない、できない複数の理由があります。
まず「辞めて他のバイトをまた一から始めるのが嫌」というのがあります。現在は人手不足ではありますが、それでも自分の都合の良い時間帯だけ働けるアルバイトを見つけるのは容易ではありません。また仕事に慣れ職場の人間関係もできてきた。だったら数千円ぐらいのノルマなら仕方ないか、と思う学生もいます。さらに新しいバイトに「転職」するとまた研修賃金から始まり、その期間が半年とか不当に長い場合もあるようで、時給の上からも「また最初から」は嫌なんだろうと思います。
二つ目は「辞めると生活費に支障が出る」からです。経済的にきりつめて生活している学生も多いです。バイトが途絶えると日々の昼食費などに支障が出てきます。
三つ目は「責任感や同僚への思い」から辞められない、です。先ほども申し上げたように、今は非正規を中心に回している職場も多いです。そういうところではバイトでも正社員並みの責任感をもって働いている学生も多いんですね。そういう学生に「バイトなんだから辞めれば」とアドバイスしても、「自分はそんな無責任なことはできない」と反発するだけです。真面目で良い学生だけに、それが利用されてしまっている感じです。
四つ目に、すでに重要な労働力となっている学生を辞めさせない圧力も強いようです。