そもそも中国文化は根本的に日本人には合いません。例えば故事にある「宋襄(そうじょう)の仁」は、紀元前の宋の国の襄公という人が、参謀から「敵が川を渡っている最中だから、今攻めれば勝てる」と進言されたのに、「そんな卑怯なことはできん」と相手が川を渡り終えてから正々堂々と戦って、負けたという話です。無用な情けということで、中国では「大バカ者」という意味です。
上杉謙信の美談となっている「敵に塩を送る」なんてメンタリティは中国人には通用しません。どんな手を使っても、とにかく勝ちさえすればいいというのが中国の文化なのです。
かつての日本は、今よりももっとうまく中国とつき合ってきました。中国の力が強大だった時は遣隋使や遣唐使を遣って制度や文化を取り入れましたが、それも平安時代になったら「もう中国の文化はいらん」とやめました。
中国の文化も、すべてを受け入れたわけではありませんでした。生身の人間の肉を少しずつ切り落としてじわじわ殺す凌遅刑は残酷だからとシャットアウトしたし、科挙も宦官も入れなかった。纏足の習慣も日本では根付きませんでした。朝鮮半島はそれらすべてを無条件に受け入れましたが、日本は取捨選択をキチッとして独自の文明を育んだのです。
それを考えれば、現在も中国に対する漠然とした憧れを持つことはやめるべきだし、そんな勘違いを育む漢文の授業も廃止したらいいのです。
●ひゃくた・なおき/1956年、大阪市生まれ。同志社大学中退。放送作家として「探偵!ナイトスクープ」などの番組構成を手がける。2006年、『永遠の0』で作家デビュー。近著に『カエルの楽園』『幻庵』などがある。
※SAPIO2017年5月号