その田口さんに、若者の「なぜ読書をしなければいけないのか」という問いをぶつけると、こんな答えが返ってきた。
「読書は誰かの体験を追体験することです。それは未来の出来事への経験値となる。例えばその人が10才だったら10年分の経験しかありません。でも、読書で得た自分以外の誰かの経験は、自分がしていない経験を埋める時に、大きな武器になると思うんです」
確かにそれは効率が悪いかもしれない。スマホで調べれば簡単に答えが出てくる――そんな反論もあるだろう。しかし、その効率の悪さにこそ本が大きな武器となる秘密が詰まっているのだ。
押しつけるのではなく、幼い頃から子供に本に親しみを持ってもらうための試みとして「読み聞かせ」がある。
◆子供の読書はいじめ防止対策にも有益
4月初旬の日曜日の午後、東京・紀伊國屋書店新宿本店では『おはなし会「絵本でおさんぽ」』というイベントが開催されていた。
「はじまりは小さなことだった。ある日、お月さまが遅刻した。怒ったお日さまは、やっとのぼったお月さまに、“遅いぞ!”と怒鳴った…」
これは『おひさまとおつきさまのけんか』という絵本。おつきさまとおひさまがけんかをし、お互いに謝れなくなって、ついに「せんそう」を始めてしまうという話だ。
集まっていた2才から7才の子供たちが熱心に聞き入っている。近くを通りかかった子供も1人2人と立ち止まる。中には母親に「聞いてみる?」と促されて途中から加わった子供もいた。参加していた7才児の母親(44才)はこう話す。
「いつもは落ち着きのない子ですが、絵本を読んでいる時はとても楽しそうで集中しています。“読んで”と言ってきますけど、1人でも読んでいます。1冊に30話入った本がお気に入りで、そこから1つを選ぶのが楽しいみたい」
イベントを主催していたのはボランティアグループ・たんぽぽ。毎月、書店や図書館、幼稚園などで乳幼児から小学生を対象に、読み聞かせイベントを行っている。代表で臨床心理士・絵本講師の赤間立枝さんが言う。