一帯一路、AIIBそしてSDR通貨人民元のいずれも、「中華経済圏」という名の習政権のアジアの陸海制覇戦略そのものだ。インフラ整備は中国に直結する軍事転用可能な高速道路、鉄道、空港、港湾を意味する。習政権はインフラ整備をミャンマーの少数民族に提示し、少数民族を民主化政府から離反させ、自国の影響下に組み込もうとする。地政学的膨張は南シナ海に限らないのだ。
毛沢東肖像付き紙幣は国際金融市場で信用されなくても、中国のおびただしいモノとヒトがアジアに浸透すれば、普及して行く。ADBが日本の資金などを使って整備を進めたメコン川流域には中国人と中国企業が進出し、環境は破壊され、下流域は洪水に見舞われている。
安倍晋三政権はAIIBや人民元問題が見かけ上小さくなったからと言って、親中派の官僚にまかせてはならない。トランプ政権とはしっかりと安全保障上の視点を確認すべきだ。
【PROFILE】たむら・ひでお/1946年高知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日経新聞を経て、産経新聞記者となる。現在、編集委員と論説委員を兼務。『人民元の正体 中国主導「アジアインフラ投資銀行」の行末』(マガジンランド)、『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『財務省「オオカミ少年」論』(産経新聞出版)ほか著書多数。
※SAPIO2017年6月号