慌てて本人の携帯番号を教えてもらい電話すると、「2日後に小笠原で時間がとれるので、電話でどうぞ」と明るい声で返答があり、なんとか取材が成立した。
著書は、軽妙な筆致とちりばめられたギャグですらすら読み進められるうえ、行間からは鳥類に対する愛がにじみ出る。何より“研究のためなら何でもやる”という情熱が凄まじいのだ。火山活動が活発な西之島にも、川上氏は1995年と2004年に上陸調査を行なっている。
2013年11月の噴火で一度は調査の術を失うが、翌年にNHKの協力を得て無人飛行機で島にいる海鳥を撮影する“プロジェクト”に参加。高度を下げすぎて無人機のプロペラに噴石が当たって破損するといったアクシデントに見舞われながらも、3回目の挑戦で見事にカツオドリの姿をカメラで捉え、生息を確認したという。
「さすがに噴火中の島は危ないから行きたくない。でも、そこには生物がいる。それは見たい。なので、今はドローンを飛ばして調査することを考えています。内地にいる時は操縦の特訓をしています(笑い)」(川上氏)
小笠原諸島だけでなく、川上氏は八重山諸島、さらには海外のボルネオ島や無人島の森に分け入って調査を行なう。断崖絶壁に囲まれ、港もない無人の南硫黄島に上陸するため、前年からスイミングプールで泳力を、クライミングジムで垂直の壁を登る力を鍛えるなど、フットワークの軽さは尋常でない。川上氏はこういう。
「あくまで仕事なので危険なことはしちゃいけないと思っています。ただ、調査しやすい場所の調査はすでに、終わっているので、必然的に過酷になっていくんです」