さらに野村氏は中村の映像を見ながら、その「素質」と「課題」を語り始めた。甲子園の準決勝、天理戦の初回、1死二塁での打席。中村が大会屈指の右腕・碓井涼の初球をバックスクリーンへ放り込んだ場面には、「手首が強いんだな。18歳だろ。自分の18歳の頃では考えられん。凄いな」と感嘆の声を漏らす。ただ高い期待の裏返しなのか、中村のバッティングフォームを見てこうも続けた。
「普通に打っても遠くに飛ばすことができるだろうに、“遠くに飛ばしたい”という意識がバッティングに出てしまっている。少しアッパーになってるよ。今はリストの強さで飛ばせているが、金属バット独特の打ち方で、いわゆる“手打ち”なのも気になる。足腰の力がバットに伝わっていない気がするね。木製でも打てるか? オレは金属で打ったことがないからわからないなぁ」
そう笑みを浮かべるのであった。
◆「ミットを下げるな」
打者としてのポテンシャルの高さに目を細める一方、映像が広陵の守りのシーンに変わると、野村氏の眼光は鋭くなった。
天理戦4-4の5回裏無死一、三塁のピンチで天理が初球スクイズを仕掛けた場面。一塁側へ上がった小飛球を中村はダイビングキャッチして三塁へ送球、併殺を取った。ホームランの場面とともにスポーツニュースでも繰り返し流されたハイライトだが、野村氏は眉をひそめた。