健康になりたい人にとって、「赤ワインさえ飲めば健康になれる」というのはかなり魅力的な健康法だった。いや、単にお酒を飲みたい人に、「健康にいい」という大義名分を与えてしまった面もある。ブドウの産地や赤ワインメーカーにとっても、赤ワインが売れれば都合がいい。ポリフェノールを増量したものや、健康をうたった商品も続々発売された。
もちろん、赤ワインと健康の関係を研究している医学者にとっても、自分の研究が注目されることはよろこばしいに違いない。
これら3者にとって、「赤ワインは健康にいい」というのは「都合のいい真実」だったのだ。そう思い込みたかったのか、思い込まされたのかはわからないが、ぼくはこれを「思い込み過剰症候群」と呼んでいる。
いま巷を横行している「フェイク・ニュース(偽ニュース)」「ポスト・トゥルース(脱・真実)」も、ある集団や共通の価値観をもった仲間のなかで、目立てばいい、受ければいいという発想であぶくのように打ち上げられる。
炎上上等。内向きに閉ざされている小さな世界の住人には、事実や真実はもちろん、モラルや常識なんて関係ないのである。赤ワインブームの「思い込み過剰症候群」も、これと構造がよく似ている。研究が進んで、「赤ワインが心臓病やがんを減らす」という説が否定されても、いまだに信じようとする人たちがいるのだ。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『検査なんか嫌いだ』『カマタノコトバ』。
※週刊ポスト2017年9月15日号