2006年のメルボルンカップでは、最後の直線、デルタブルースとポップロック(D.オリヴァー騎乗)はぶつけ合いながら上がっていった。先を行くデルタがぶつけられたのですが、デルタのほうが性格的に激しく、火がついた感じでゴール板を駆け抜けました。
ぶつけて(ぶつけられて)気合が入る馬とその鞍上。そういった特徴を他のジョッキーは当然知っている。あるレースで、力関係を見れば自分の馬は4番手だと分かったとします。上位にぶつかって怯まない馬がいるのかどうか。その馬とぶつかったときにどう対処するのか。自分の乗る馬の特徴を考慮し、レース前にシミュレーションができるわけです。
枠順が決まり、相手の馬や騎手の癖をビデオでチェックする。何鞍も乗る場合は時間が足りず、エージェントが下調べを手伝うこともあるようです。この馬は直線で垂れてくるとか、この騎手は必ず右側から馬をかわしていくとか。それを頭に入れた上でレースに臨み、視野を広くして、直線ではどこが空くのか、瞬時に判断する。
ぶつけられることで嫌気が差して競走をやめてしまう馬がいることも確かなら、ぶつかることがイヤではない馬がいるのは確かです。ムチと同様、ぶつかることで火がついてさらに脚を出す。メルボルンカップの映像を見返すと、最後の直線のぶつかり合いはムチを振るう効果があったようにも思えてきます。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位(2017年11月5日終了現在)。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。本シリーズをまとめた『競馬感性の法則』(小学館新書)が発売中。
※週刊ポスト2017年11月24日号