フィギュアスケートに詳しいライターはこう語る。
「ジャンプやスピン、ステップではなく、技と技の“つなぎ”の部分にあたるトランジションに着目し、ここまで解説した本は初めてだと思います。演技を見ていたら一瞬で過ぎ去っていく<ターン>や<チェンジエッジ>と呼ばれる細かなスケート技術を、虫眼鏡で見るするようにひとつひとつ掬い取って、羽生選手がどのくらい難しいことを軽々とやっているかを分析している。フィギュアスケートへの深い造詣と愛がなければ書けない労作だと思います。
と同時に、この本が共感をもって受け入れられていることに、日本のフィギュアスケートファンの成熟度、マニアック度、を痛感しますね。高山さんの解説を読みながら羽生選手の演技を見直している、といったファンも多いようで、ジャンプといったわかりやすい技術のみならず、選手たちが行っているすべての技術や表現を理解し、愛でようという意気込みを感じます。
日本人のファンは本当に世界最高レベルで、いまや世界中の大会に日本のフィギュアファンは押し寄せています。日本ではほぼ満席になるような大会でも、海外ではかなり空席が目立ったりするんですね。そんな中にも必ず日本人のファンはいる。その多くは日本人の選手のみならず海外の選手も平等に応援するため、日本のファンは温かいと、海外の選手もよく言いますが、温かいだけではなく、とても勉強熱心だし、技術に詳しいと思います。だからこそ、本も売れるのではないでしょうか」
アマゾンレビューでは「星5つ」ばかりが並ぶ『羽生結弦は助走をしない』。羽生選手のスケーティングの魅力は<エアリー感>、一方、パトリック・チャンのどこまでも伸びていくスケーティングはますます<ピュア>になっている、など、高山さん独自の観察眼と表現に、ファンは納得し、酔いしれているようだ。