「夜、部屋で横になっていると、リビングから楽しそうな話し声が聞こえることもありますが、私が行くと会話がやむんです」(恵さん)

「こんなはずじゃなかったのに…」毎晩、恵さんは夫の位牌に語りかけながら考える。私がこの家で死んでも、きっと家族は気付いてくれないだろう、と。

 こうした老人の寂寥感を描いた漫画『傘寿まり子』(講談社)が今、重版に次ぐ重版で、大ヒットを記録している。

 80才の主人公・幸田まり子は、息子夫婦、孫夫婦、ひ孫と同居している。狭い家に4世代が集まると、家族関係はギスギスしてまり子の落ち着ける場所はない。

 そんな中まり子は、同じ4世代同居で暮らす知人女性が同居孤独死したことを知る。ショックを受けた彼女は、“忙しくて構っていられなかった”と開き直る遺族に、知人の心境をおもんぱかりこう告げる。

《自分でもつらいのよ。どうせこの先長くない人間なのに。まだ生きててごめんなさいって》

 その後、家族が自分に内緒で自宅の建て替えを計画していることを知ったまり子は、家を出て1人暮らしすることを決意する。引き留める長男に打ち明けた言葉が胸に刺さる。

《あの家は私の家なのに、いるだけで息苦しくて。でも家族というくくりがあるから一緒にいなくちゃって》
《(あの家が)嫌いじゃないからつらかったの》

 作者のおざわゆきさんが語る。

「私の母が80代で、周囲にも高齢のかたが多い。身近な存在を形にするうえで、現役も親世代も、今後無視できない問題を取り上げました。まり子を描くうえで、高齢者の気持ちをいかに理解するかに悩みましたが、最終的には、母を含め高齢者の方々の孤独や不安に共感しました」

 作品の反響は、40~50代の子供世代の読者からが多いという。親や将来の自分と重ね合わせる人も多いのだろう。

「高齢者は、いろいろな意味で“孤独のプロ”。今後も孤独という課題をうまく乗りこなす魅力的なキャラクターを描くつもりです」(おざわさん)

 地域の高齢者に向けて配食サービスなどを行うNPO法人「支え合う会みのり」の担当者は言う。

「家族と一緒に暮らしていても、日中はすれ違いばかりだったり、自室にこもって誰とも話をしないお年寄りはたくさんいます。孫が小さい時は面倒を見ても、成長するにつれ家族との接点がなくなるケースも多いです。そうしたかたが口々に言うのは、『家族のなかで孤立することがいちばん寂しい』ということ。『1人暮らしの方が気が楽』と嘆く高齢者も多いです」

※女性セブン2018年5月31日号

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