現在、横須賀線の「武蔵小杉」駅入り口には、臨時の改札口が設けられているので、かつてのように「改札まで〇分」というようなことではなくなったらしい。しかし、地元の人に伺うと「念のために30分早く自宅をでる」といったケースが多いという。それでは何のために「都心に近い便利な武蔵小杉」にマンションを購入したのか分からない。
また、武蔵小杉エリアでは保育所がかなり不足しているという。タワーマンションが次々に建設されたのに、保育園の新設が追い付いていないのだ。
タワーマンションの購入者には、パワーカップルが多いと言われている。夫婦のどちらもが第一線で活躍しているようなカップルだ。当然、子どもは保育園に預けることになる。しかし、武蔵小杉周辺では保育園の数が絶対的に不足している。
また、保育園であっても園庭を持たないビルインのタイプが多いという。そういう保育園では日中、子どもたちを近隣の公園へ連れて行って遊ばせるのだが、タワーマンションエリアには児童公園がほとんどない。
さらに、この街ではタワーマンションが建ち始めて以来、強いビル風が吹くようになった。台風も来ないのに風速10メートル以上の風が吹くことも珍しくない。最大で風速20メートルのビル風も観測されている。現在のところ、ビル風による大きな事故は起こっていないが、風速20メートルでは何かが起こっても不思議はない。
駅は人であふれ、子どもたちは建物の中に閉じ込められ、ビル風が地上を吹き荒らすタワーマンションの街、武蔵小杉。この街にタワーマンションが建ち始めたのは、ここ10年少しのことである。
そもそも、大量の容積率を必要とするタワーマンションの建設には、行政側による用途地域の変更など、いくつもの緩和措置が必要である。実際、川崎市はこの武蔵小杉でタワーマンションが林立できるように、用途地域の変更をはじめ容積率の緩和、空中権の売買などに対して、恐ろしくデベロッパー側に宥和的であった。逆に言えば、反対する市民運動側に冷たかった。それは今も続いている。
さらに、行政側の施設を併設することを理由に公的資金まで出しているケースがほとんどだ。つまり、タワーマンションの建設に市民の税金を投入しているのである。その結果。武蔵小杉エリアにはハリネズミの如くタワーマンションが林立することになった。
駅の混雑も、保育園の不足も、公園の少なさも、川崎市があらかじめ想定していたとは思えない。むしろ、住民が一気に増えるタワーマンションの建設を、行政が後押ししているようにも受け取れる。そこに死角はないのか。