そもそもプレ金の失敗の最大の原因は、商品・サービス供給サイドの消費喚起策と働き方改革を一緒にしたことにあると思っている。
プレ金実施の背景にはアベノミクスの「新三本の矢」の1つである名目GDP=600兆円実現の最大の課題である個人消費の増大があった。2016年2月の経済財政諮問会議の場でアメリカの11月の感謝祭翌日開催の小売セールの「ブラックフライデーを日本でも」との声が上がったのがきっかけだ。それに呼応したのが経団連副会長で三越伊勢丹ホールディングス会長の石塚邦雄氏(当時)だった。
石塚氏が流通・サービス業界に呼びかけて経団連内に消費拡大に向けたプロジェクトチームが設置され、経団連と経済産業省の流通政策課が中心となって消費活性化策の検討が始まった。
その結果、給料日後の平均消費額が高いとされる月末金曜日のプレ金の実施が決まった。つまり主導したのは商品・サービスの供給側である流通・サービス業界であり、プレ金実施日もその都合で決まった。
しかし、政府の働き方改革や休み方改革の一環として取り組むとなると、労働者に公正・公平に休みが享受されることが原則だ。消費イベントに関係のない需要サイドの労働者が早帰りできたとしても、供給サイドの労働者はプレ金イベントに合わせて仕事が忙しくなり、早帰りどころか残業せざるをえなくなる。とくに人手不足にあえいでいる小売・飲食・サービス業の労働者にとっては長時間労働など仕事の負荷が発生する。
また、仮にサービス業の会社でプレ金を実施するとしても、早帰りできるのは一部の社員であり、社員間に不公平が発生する。
そのことを見越してプレ金実施を見送った企業もある。ある食品加工販売業の人事部長はこう語る。
「当社は工場と小売店舗を展開していますが、工場は金曜日を含めてフル稼働なので難しい。また逆に小売店舗はプレミアムフライデーに合わせて販売が忙しくなる。
やろうと思えば本社などの事務方の社員は早帰りできるでしょうが、営業や販売部門から『早帰りするなんてふざけている』という批判が飛び出すのは必至。それこそ3時に帰るなら店舗の手伝いに来いといわれかねない。社員の公平性の観点からやらないことにしました」
業務によって早帰りできる社員もいればできない社員もいるのはどこの会社も同じだ。だが同社のようにプレ金に合わせてイベントやキャンペーンを展開する流通・サービス業は商戦まっただ中であり、早帰りを強く促すこと自体が難しい。
鉄道業の人事部長もプレ金の困難さについてこう語る。
「我々は早帰りするお客様を運ぶほうだし、グループ企業に小売・サービス業を抱えています。プレミアムフライデーに関してはデスクワークに従事している社員に半休やフレックスタイムを使って帰れますと啓蒙していますが、それ以上は強く言えない。実際に早帰りしている社員は極めて少ないのが実態です」
業種や職種によって早帰りが難しい企業も多い。商機にあやかりたいプレ金のロゴマーク使用申請企業は8000社を超えている(2017年10月20日現在)が、肝心の早帰りを実施している企業や社員は各種調査を見ても非常に少ない。