ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)は、これまでBLに触れてこなかった人々も巻き込んで大きなブームになった。さらに、『きのう何食べた?』(テレビ東京系、よしながふみ著・講談社)が4月にスタートを予定し、映画『窮鼠はチーズの夢を見る』(水城せとな著・小学館)が2020年に公開される予定だ。
なぜ、こんなにもBLへの注目が集まっているのだろう?
現実の恋愛がうまくいかなかったり、「女らしさ」に自信が持てない女性は、BLでは素直になれるという面もある。『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』(太田出版)の著者で、BL研究家の溝口彰子さんが指摘する。
「BLの根底にあるのは、自分が女性であるという現実を脇に置いて、物語に逃避できることです。モテる女性キャラクターが出ると自分と違いすぎてつらいけれど、BLならば男同士だから“神の目線”でも楽しめます」
一方で、今も根強い「性差」の影響もありそうだ。男女平等が進んだとされる現在も、女性は家事や育児などの役割を求められることが多い。だがBLでは、「性的な役割分担」が存在しない。
「男女のカップルだと、掃除、洗濯、料理などの家事は自然と女性が背負うことになりがちですが、男性同士だと、得意な方がやるというスタイルなんです。またBLの登場人物はカップル両方が外で働いていることが多く、共働きが当たり前となっている現代女性読者は共感しやすいという声もあります」(溝口さん)
都内在住の50才主婦は、「男同士の対等な関係に憧れます」と語る。
「男同士が思い合う心の間には、女性と男性の間に多く存在するようなある種の上下関係がないような気がします。もちろん上司と部下という関係があっても、1つの目標に向かう意味では五分と五分で対等な感じ。たとえ恋愛でなくても、そうした男性同士の間に見られる互いへのリスペクトに惹かれるんです」
日本では、まだ多くの女性が「生きづらさ」を抱えているという社会背景もある。
『恋と軍艦』(講談社)で同性愛を描いた漫画家の西炯子さんが指摘する。
「BLが日本で発達したのは、日本社会は女性であるだけで生きづらいからです。女性であるがゆえに思うように生きられない苦しみは、同性愛であるがゆえの苦しみと重なります。だから多くの読者は、BLの登場人物に自分自身の苦しみを見出して共感し、ハッピーエンドを望むのです」
実際、世界経済フォーラムによる「男女平等ランキング2018」では、日本はG7のなかで圧倒的最下位の117位だった。
明治大学で「ジェンダーと表象」を教える藤本由香里さんも、「日本の女性はさまざまなことに縛られている」と指摘する。