3月1日公開の『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2012~2019


広瀬:わかります! 私もドラえもんは大大大好きだけど、自分の仕事とは縁のないことだと思っていたので、お話をいただいて本当に驚いてしまって。アフレコはものすごく緊張して無我夢中だったので記憶があまりないし(苦笑)、初めてマイクの前で足がガクガク震えちゃったんです。

辻村:えぇーっ! 声を聞くとそんなふうには全然聞こえませんでしたよ。私は脚本を一度お断りしてしまった以上は一生やらないと決めていたんです。ですが、その後も藤子プロさんが私との関係を大切に育ててくださったんです。藤子・F・不二雄先生(以下、藤子先生)の奥さまやお嬢さま、アシスタントをされていたむぎわらしんたろう先生たちからお話を伺う機会を作っていただいて、「藤子先生って本当にいらしたんだ」と実感することができました。

 私は『のび太の恐竜』が公開された1980年生まれ。気づけば幼い頃からずっと当たり前のようにドラえもんの映画がありました。

 むぎわら先生は藤子先生が亡くなられてから大長編を引き継がれたのですが、当時のエピソードを聞くと壮絶なんですよね。ドラえもんを描きながら「先生の絵はこんな絵じゃない」とか「ごめんなさい。描けません」と葛藤して、「先生これでいいですか」と心の中で何度も何度も問いかけながら最後まで描かれた。ドラえもんの映画は毎年そうやって誰かが大切につないできてくれたから、自分もファンでいられたんだと思ったんです。

 6年前は自分が作家として何ができるのかと考えてお断りしてしまったけれど、そうではなく、脚本の依頼は、「次の1年へつなぐためのバトンをもらってほしい」ということなんだと考え方が変わりました。今年の映画を送り出すことがこれまでドラえもんに育ててもらった作家としての恩返しになるのではないかと、思い切ってお引き受けすることにしたんです。

広瀬:私もやっぱり幼い頃からドラえもんはずっと身近にあって、テレビアニメも毎週楽しみにしていましたし、映画も見ていました。思い返せば、友情や家族の大切さって、自然とドラえもんから学んだ気がします。

【広瀬アリス(ひろせ・ありす)】
1994年生まれ。静岡県出身。2008年映画『死にぞこないの青』で女優デビュ-。以降、連続テレビ小説『わろてんか』や映画『新宿スワンII』、『旅猫リポート』、『銃』など数々の話題作に出演。ファッション誌『with』のレギュラーモデルも務める。2020年には映画『AI崩壊』の公開が控える。

【辻村深月(つじむら・みづき)】
1980年生まれ。山梨県出身。千葉大学教育学部卒業。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞し、デビュー。2012年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞を受賞。2018年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞の大賞を受賞。

※女性セブン2019年3月14日号

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