その順風満帆だったヴィッツに急ブレーキをかけたのが、2年後の2001年に突如登場したホンダの第1世代「フィット」だった。フィットはヴィッツと違い、開発時はホンダの中では期待されていなかった。ホンダがこのクラスで成功したのは初代「シティ」だけで、後は何をやっても売れないという状況。フィットの前型にあたる「ロゴ」というベーシックカーも販売は惨憺たるものだった。
新型車の開発に周囲がとやかく口を出すのはホンダの伝統だが、期待値の低いモデルの場合それがなく、わりと好き勝手にできる。そのことと低開発予算が、思わぬプラスの効果を生んだ。
デザインはホンダが1990年代に経営危機に陥ったことでお蔵入りになった、欧州市場攻略のための渾身の小型車向けのものを5ドアに修正して再利用。燃料タンクを車体後部ではなく中央に設置して室内を広くするなどさまざまなアイデアを盛り込んだが、それへの口出しもほとんどなかったという。
そんな経緯で出てきた第1世代フィット。当初は月3000台くらいだろうと踏んでいたホンダの思惑を完全に裏切り、空前のスマッシュヒットとなった。好調だったヴィッツを吹き飛ばしたばかりか、登場翌年にはそれまで33年連続国内販売ナンバーワンであった小型車「カローラ」をその座から引きずり下ろし、年間販売台数トップに立ったのだった。
以来、この2台は日本における宿命のライバルとなった。トヨタには小型ハイブリッド専用車「アクア(海外名/プリウスc)」があり、それとヴィッツを足せば販売台数ですでにフィットを圧倒しているが、車種数の大幅削減をめざすトヨタはその構図を変えたいと思っている。ハイブリッドカーは高くても許されるという時代が過ぎつつある今、日本以外では販売低調なアクアは、あっても次期型まででリストラ対象だ。
アクアがなくなっても大丈夫という狙いの次期第4世代モデルはついにヴィッツという名が消え、欧州名と同じ「ヤリス」になる。本記事公開から1週間を経ずに全貌が明らかになる見通しだが、関係者への取材によれば、初代以来と言える欧州コンパクト路線に立ち戻るとのことだ。
クラスは初代のAセグメントミニカーからBセグメントサブコンパクトに上がっているが、安定性を上げるためボディに対して左右輪の幅を可能な限り大きく取り、張り出したホイールを包むためフェンダーも張り出した形状になるという。
パワートレインは一新された3気筒ガソリンとハイブリッド。ハイブリッドも長年使ってきた1.5リットル直4と異なる高効率エンジンとの組み合わせになるということで、力の入りぶりがうかがえるところである。