新型コロナウイルス感染拡大と相前後して、芸能界から政治的なコメントが多く発せられた。遠景に、米国発のあるドキュメンタリー作品の影響を指摘するのは作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏である。
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ステイホームで映画館が閉まり、ドラマの撮影も止まって新作の放送は延期になり、DVDのレンタルも感染リスクを考えると躊躇してしまう……。そんな状況下で人々が選んだ選択肢の一つが、ネットの動画配信サービス。「今回のステイホームをきっかけに登録した」という人も多かったようで、Netflixは全世界で1500万人以上の新規加入者を得た(2020年3月末時点)そうです。
知り合いの中には「悔しいけれど、軍門に下るしかないと契約した」という人も。これまで「映画は映画館で観る」が信条で、新しいものにすぐ飛びつくのは軽薄、と考えていたとか。しかし、そうした「保守」層の行動にもコロナ感染拡大は大きな影響を与えました。興味深い点は、かたくなに動画配信を拒絶していた人の態度がコロっと変わったこと。魅力にハマり、海外ドラマのシリーズを「一気見」して他の人にもオススメしている、という豹変ぶりです。
さて、最近の動画配信サービスが優れているのは、既存作品の配信だけではありません。「オリジナルの作品制作」における高いクオリテイも注目。日本市場のトップに躍り出たNetflixは特に潤沢な予算をかけて作品を制作することでも知られています。日本国内でも『火花』や『全裸監督』といったオリジナルコンテンツを生み出し、他国でも配信されヒットを飛ばしています。
一方、Amazonプライムビデオのオリジナル作品も、例えば最長寿のシリーズ『BOSCH/ボッシュ』は刑事ドラマの傑作と言える仕上がり。その他、複数のサービスが入り乱れ顧客争奪戦を繰り広げ、まさに動画配信戦国時代に突入の様相です。
さて、ステイホーム期間中に最も気になった動画配信サービスの作品は、と問われたら? 日本の芸能人たちがもしかしたら家で鑑賞し多大な影響を受けたかもしれない? などと想像をかきたてられてしまうドキュメンタリー『ミス・アメリカーナ』(Netflix)でしょう。
「政治には関心を示さない」「直接的な発言はしない」。日本だけでなくアメリカにおいても、セールスを考えた場合、多くのミュージシャンやアーティストが選んできたノンポリのスタンス。ところが、「口に貼っていたテープを剥がす時がきた。ピンク色の服を着て、政治について語りたい」と発言し始めた人がいる。「世界の歌姫」テイラー・スウィフトです。
テイラーは何といっても共和党の支持地盤として知られる南部テネシー州で育ち、しかもカントリー歌手としてデビュー。保守派支持者はカントリー・ミュージックを好む層と重なります。そんな「保守の固い岩盤」からスターの座に駆け上ってグラミー賞10回、アメリカン・ミュージック・アワードを29回受賞。しかもこれまで一貫して政治的発言をしてこなかったため、トランプ支持とささやかれていた。そのテイラーの変化の瞬間を捉えたドキュメンタリーとくれば、興味を惹かないわけがない。