山下柚実 最新ドラマ時評一覧

菅田将暉の秘密
菅田将暉『ミステリと言う勿れ』の成功とドラマ人気に火が付く条件
 ドラマにおけるある種のトレンドは、作品のクロージングからも窺われるものだろう。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。 * * * 冬期のドラマも次々に幕を閉じる時期。前評判の盛り上がりに比べると、話題がしぼんでしてしまった作品も多かった印象です。特に黒木華さんや高畑充希さんといったトップクラスの人気役者が主演したドラマがなかなか盛り上がらず。しめった幕引きになってしまったのはなぜでしょうか? 振り返れば、黒木さん高畑さんのドラマはいずれも「ネットニュース編集部」「ベンチャー企業」と具体的な仕事現場が舞台。お仕事ドラマの側面と共に人間関係を描いていく内容でした。しかし、脚本が十分に練り切れていないせいか描かれた仕事も表層的でやや雑な作り。リアルさが足りず、また主人公のキャラクターの掘り下げも不十分で苦悩や成長といった人間ドラマの要素も物足りなかった。 たとえ個性的で演技派の女優たちを看板に並べたとしても、その魅力を十分に発揮するチャンスを準備できなかった、ということでしょうか。 一方、最終回を前に勢いづいているのが『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系月曜午後9時)。一語終わるごとにネットのコメントも沸騰、視聴率も二桁を維持し続けています。 今やドラマ人気の新たな指標として注目される「配信再生回数」ですが、このドラマの9話までの見逃し配信再生数は3202万再生に達し、1クールのドラマで「計3千万回超えは民放番組初めて」の快挙だとか。残り一話ですが「ドラマに賭ける」というフジテレビの意気込み通り、しっかり爪痕を残しそうです。『ミステリと言う勿れ』というドラマは、一見すると「犯人は誰か」といった謎解き要素が多くミステリーのようでいて、しかしその奥には「人間の抱える矛盾とは」「生きるとは」といったテーマが横たわっている。いわば純文学風です。「真実は1つなんかじゃないですよ。真実は人の数だけあるんです。人は主観でしか物を見れない。自分が正しいとしか言えない」「人は病に負けたから死ぬんじゃない」「自分ができることは人もできると信じている教師は、多くを取りこぼすことになる」 菅田将暉さん演じる久能整のセリフは、当たり前のことに疑問を投げかけたり既成概念にを揺さぶる本質的な問いかけ。だから視聴者も一度ドラマを見たら終わりにはならず自分の中で反芻したり考えたり。謎解きのストーリーに依存せず人間の不思議さや迷い、葛藤や苦悩といった要素がしっかりと盛り込まれ、そうした要素が個性派の役者たちをより一層輝かせた、とは言えないでしょうか。 このドラマに登場した個性派役者といえば菅田さんはもちろんですが、例えば風呂光刑事を演じた伊藤沙莉さん。女性刑事ということで職場に居心地の悪さを感じ、完璧ではない自分に対する迷いやミスを重ねる弱さ等も含め、人間臭さを描き出しています。 あるいは9~10話で視聴者を魅了したライカ(千夜子)役の門脇麦さん。解離性同一性障害で人格が豹変するという難しい役でしたが、ライカと千夜子の演じ分けに視聴者は震撼としました。「~だ」「なのか」という中性的な口調でライカの特異性を浮き上がらせていく演技は、門脇さんにしかできない存在感。整にむかって「痛みを代わってあげられたらよかったな」と語るセリフは短い中に悲しみが溢れていた。難解な役に門脇さんをキャスティングして大正解。個性派女優の名に恥じない圧巻の演技を見せてくれました。 そして最終回は、いよいよ犬堂我路役・永山瑛太さんの演技に大注目です。  役者たちの潜在的な魅力を引き出すことに成功した『ミステリと言う勿れ』。それに対して、たとえ演技の上手い人気役者を主役にしても、条件が揃わなければドラマ人気に火が付かないということを、冬期のドラマは示してくれたのではないでしょうか。 NetflixやAmazonの力もありネット配信が浸透し、配信再生ビジネスのうまみも見えてきた今。各局はドラマを強化していく傾向を鮮明にしています。フジテレビは新たにドラマ枠を作り、テレビ東京もTBSも深夜ドラマを増やしNHKにいたっては朝ドラならぬ夜ドラマを毎日15分、月~木に放送するという。 しかし、ただ数を増やせば良いというわけではない。粗製濫造ではなく何度も見たくなる深みのある作品や役者の魅力がにじみ出すような秀作をいかに丁寧に創り上げ世に送り出せるか。それが結果的に配信再生回数を生み出すことにつながっていくはず。制作サイドの力量と熱量が問われているように思います。
2022.03.26 16:00
NEWSポストセブン
”カムカムロス”が起きそう(NHK公式HPより)
『カムカム』は「膨らみのある群像劇」 過去の脇役たちがやたらに気になる
 作品が重層的であればあるほど視聴者のロイヤリティは増すものだ。今期の朝ドラは明らかにその傾向がある。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。 * * * 怒濤の回収劇に突入したNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。過去と現在が交錯し、久しぶりに見た懐かしい顔に感激する一方で、やや混乱も。 3月17日の回では、喫茶店「「Dippermouth Blues(ディッパーマウス・ブルース)」店主の定一さんが登場したと思ったら、それは息子の健一さんでした。演じているのが定一役だった世良公則さん。父親と息子とを上手に演じ分けた世良さんに拍手喝采です。 このドラマではこれまでにも「親と子を同じ人が演じるパターン」が出てきました。たとえば尾上菊之助さんが「モモケン」こと桃山剣之介の初代と二代目を演じたり、堀部圭亮さんが荒物屋「あかにし」の店主・赤螺吉兵衛と息子の親子の二役で笑いをとったり。何とも遊び心のある演出です。 いや、演出や配役の遊びだけではなく、このドラマが持つ深いテーマ--巡っていく円のようなもの(制作統括・堀之内礼二郎氏)を表しているようです。 その一方で、安子に恋した若い勇ちゃんを演じて爽やかな味を出していた村上虹郎さんが、年老いたら何と目黒祐樹さんになって出てきたり。村上さんの再登場を期待したこちらとしては一瞬「がくっ」ときたけれど、いやいやそう悪くもない。勇ちゃんって何となくこんなオジサンになりそうだ。目黒さんの演技のさじ加減が見事でした。 そしていよいよ安子(上白石萌音)が娘・るい(深津絵里)を一人残して渡米した謎が解かれる山場を迎えていく。ワクワクしつつも、謎が解かれてしまったら物語に幕が引かれてしまうとロスにおびえる日々。 はてさて安子はどのようにるいと再会するのか。という物語の筋を追うのも興味深いのですが、もう一つ、このドラマには不思議に関心をかきたてる点があります。「そういえばあの人どうしているのかな」と過去の脇役たちがやたらに気になる点です。ささやかなエピソードがふと思い起こされたり顔が浮かんだり。今元気だろうか、何をしているのだろうかと妙に懐かしい。 たとえば、安子の親友だった豆腐屋のきぬちゃん(小野花梨)は今もあの絹ごしのようなつるんとした頬で笑っているのだろうか? 風間俊介さんが演じた心優しそうな若き弁護士・片桐さんは? るいと初デートした後に別れてしまったあの人は今どうしているのだろうか? るいの恩人ともいえる夫婦漫才のようなクリーニング店、竹村夫婦の商売は今も順調だろうか?  濱田マリさんと村田雄浩さんの顔がもう一度見たくなる。あるいは、平埜生成さんが演じた映画村の榊原さんは育ちの良さそうな優しい男のまま、人生を歩み続けるのだろうか? ……などと本筋ではないところがやたらに気になってしまいます。 きっと、一つ一つのキャラクターが丁寧に細やかに描かれていたからこそ、すぐに忘れられてしまうことはないのでしょう。 物語を展開するために使われた、いわば「都合の良い捨てコマ」キャラではなく、脇であっても人としての葛藤、やさしさや悲しさが短い時間の中にきちんと描き込まれているからこそ、一人一人の輪郭を今もはっきりと思い出せるのでしょう。視聴者もまるでご近所さんの一人のようにして、見えない縁でつながっているような錯覚さえしてしまう。 主人公の波乱の人生やわかりやすい筋だけでなく、周囲の人と人との関わりや出会った人との縁、巡りあわせすべて含んでいる。『カムカムエヴリバディ』がこれまで見たことの無い朝ドラとして「膨らみのある群像劇」になっているのは、そのせいではないでしょうか。
2022.03.19 16:00
NEWSポストセブン
『365日の献立日記』鈴木保奈美の声は水を得た魚のようにいきいきと躍る
『365日の献立日記』鈴木保奈美の声は水を得た魚のようにいきいきと躍る
 定型にはまらない番組の面白さに気づいた時の高揚感は格別だ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。 * * * 殺伐とした世の中で「心底ほっとできる」と静かな話題を呼び、じわりとファンを増やし、放送後には「今日流れていた音楽は何でしょう?」とネット上で曲目の質問が交わされる。人気を反映するようにDVDも先月発売されたばかり。それがたったの「5分間」のミニ番組についてだとすれば……どんな番組内容を想像されるでしょうか? トントンとまな板の上で野菜を切る。ジュッとフライパンで焼く音、しゅわっと油で揚げる音。白く立ち上る湯気、匂い立つような色と質感。感覚を揺さぶるシズル感に溢れている。一見すると料理番組。しかし従来の料理番組とは、どこか何かが違う。 まず、料理をする人の姿がないのです。手元の動きのみが映し出され、作り方の詳しい説明や調味料の分量表示もありません。「ほっほっほ」「よいしょっ」「むっむむ」「ギューッ」「ふわっふわ」。 ナレーションもひと味違っていて、レシピの説明ではない。うるさくない程度に擬態語、擬声語、驚きや感情表現が多彩。「今日はこれやってみますか」「できたっ」「あったまりそう」「さあ、こねるぞ」。 料理している人の語りらしい。しかし料理家の声ではなく、聞き覚えのある女優さんの透明な声です。その声の主は、鈴木保奈美さん。『365日の献立日記』(NHK Eテレ金曜:21:55、再放送日曜8:55、火曜12:45)は昭和の名優・沢村貞子さんが26年半記録した「献立日記」をもとに構成されています。「献立日記」に書かれているのは料理名のみ。メモとして朝晩の献立・日付を記入したシンプルな日記です。 この番組では「献立日記」にある料理名をもとに料理家・飯島奈美さんが自由に作っていくのですが、飯島さんの姿もなく映るのは作業をしている手だけ。声で登場する鈴木さんはいわば「主人公」役で、料理をしている人になって野菜の色にびっくりしたり卵や米や魚といった馴染みの素材に新鮮な発見をしたり、民芸を中心とした焼き物の器をワクワクして選んだり。あらかじめ準備された説明的なセリフというよりも、今・ここのリアクションがいきいきと伝わり場の空気感や手触り感がリアルに漂う。 BGMがまたステキ。ツボに入ってしまうフィット感。つい何の曲なのかを知りたくなる。「青豆ごはんの回に使われた曲が何か知りたいのですが」といった質問がネット上に飛び交うのもそのせいでしょう。ジャック・ジョンソンやノラ・ジョーンズなど、使われるのは主に洋楽でアコースティックなナンバーが多いのですが、時に日本の秀れた音、例えばNulbarichの「Sweet & Sour」(『デザイナー 渋井直人の休日』のEDソング)が流れてきたり。映像のシズル感と音楽とが絶妙に溶け合い、センスの良さに思わず唸る。 誰か一人が目立つのではなく沢村貞子さん、飯島奈美さん、鈴木保奈美さんの三者トライアングルにBGMの組み合わせ。自己主張しすぎず目立ちすぎず、互いに互いを引き立てあっている。飾らない日常の中でひとつひとつを楽しみ見つけていくような大人の贅沢。意味を押し付けない5分間の癒やし力。鈴木さんの声は水を得た魚のようにいきいきと躍っています。 昨年夏にはYouTubeで突如石橋貴明さんとの離婚を発表し世間を驚かせた鈴木さん。その一方、石橋さんが社長を務める事務所は辞めないということで、事務所社長と所属俳優との新たなパートナーシップをどう作っていくのか、注目されました。「バランスが崩れたら崩れたなりに、自分がコントロールできないことが起きた方がワクワクしますし、その状態を面白がれるようになりました」(「ミモレ」 2022.2.10)と語る鈴木さん。見事に過去を脱して独自の役者世界を膨らませていることが、この『365日の献立日記』の5分間から伝わってきます。 4月には『セールスマンの死』で25年ぶりの舞台にも出演する勢い。50代半ばで単身羽ばたいた鈴木さんの今後から目が離せません。
2022.03.12 16:00
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
「プーチンの頭の中」を推し量る上で有用かもしれない米ドラマ
 世界が怒り、理解しあぐねている。ウクライナ侵攻に踏み切ったプーチン大統領をどう捉えればいいのか。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘した。 * * * 今の世界的混乱を前にして「プーチン」という人格がいかに形作られたか注目が集まっています。しばしば指摘されるのが、旧ソ連の情報機関KGB(国家保安委員会/91年に解体)にいたという経歴。過去のスパイ経験が今回の判断に影響を落としているのではないか、とも指摘されています。 スパイと言えば映画やドラマの中で繰り返し描かれてきたテーマ。007シリーズからミッション:インポッシブルまで、古今東西を通じて有名な作品は多い。MI5やMI6、CIAやFBIといった組織も映画やドラマに頻繁に登場する。しかし、ソ連の諜報機関KGBについてはどうでしょう。 いかなる組織か、どんな活動をしていたのか、そしてどんなメンタリティの人々を作り出してきたのか。全体像はベールに包まれリアルな詳細を描き出す作品も多くはなく、映画でいえば2018年公開の『レッド・スパロー』などが話題になりました。 1975年にKGBに入省したプーチン氏。80年代初めに対外スパイ部門に移り、KGBの一員として東ドイツに駐在。その時東西ドイツを分断するベルリンの壁が崩壊し、東ドイツが瓦解していくのを目の当たりにして何もできなかったことがトラウマになっていると言われています。 プーチン氏は大統領に就任するとKGB時代の同僚を政権に呼び寄せクレムリンを固めました。今の側近のうち3人-パトルシェフ安保会議書記、ナルイシキン対外情報局長官、ボルトニコフ連邦保安局長官はみなKGBの同僚です。 謎めいた組織であり今のロシア政治に大きな影を落とすKGB。それを一般人の生活風景、しかも夫婦という視点から活写した興味深いドラマがあります。『ジ・アメリカンズ』(2013-2018年)はゴールデン・グローブ賞(作品賞)、エミー賞(主演男優賞・脚本賞)の栄冠に輝いた作品で、元CIA職員のジョー・ワイズバーグが企画・製作指揮、アメリカに潜入した実在のロシアスパイ夫婦の事件を下敷きに制作されただけに描写も生々しい。 ドラマの舞台は1980年代、米ソ冷戦時代のアメリカ。まさにプーチン氏が対外スパイ部門で東ドイツに潜入していた時代と同じです。ワシントンで暮らすフィリップ(マシュー・リス)とエリザベス(ケリー・ラッセル)は子供二人と一軒家で生活し、一見すると典型的なアメリカ人夫婦。旅行会社を経営し仲が良い夫婦ですが、しかし裏の顔はKGBのロシア人スパイ。 米国に潜伏し米国人になりすまし、ソ連の利益のためになることはありとあらゆる手管で諜報活動していく。当時はまだスマホもネットもない時代。乱数表による暗号解読、盗聴、百面相のような変装、万年筆に仕込まれたカメラ。美人妻エリザベスのみならず夫フィリップも異性相手にハニートラップを仕掛け機密情報を盗み出していきます。危険とあらば暗殺工作も辞さず、遺体の手と首を切断し捨て…どんな任務も遂行していく。平凡なアメリカの生活風景の中で、ソ連の生々しい諜報活動という「見えない日常」が夫婦を通して浮き彫りになっていくのです。 もちろんドラマであり脚色も誇張もあり、今回の戦争のヒントを解き明かすわけではありませんが、ロシア人のスパイがアメリカで活動している時、祖国にいかなる思いを馳せていたのか、国への忠誠心がイデオロギーとして凝り固まっていった時どうなるのか。このドラマは単なるスパイドラマの「スリルとサスペンス」に留まらず、人があらぬ方向へと暴走していく哀しい姿を浮き上がらせていきます。 スパイ夫婦の二人にとって、少しずつ比重を増していく問題がありました。それは、アメリカで生まれそして育った娘と息子の存在です。親がソ連のスパイであること知らない、アメリカで生まれた子どもたちと、ソ連愛国主義の親はいかなる関係を作るのか、あるい対峙していくのか。親と子の複雑な葛藤や心境が描かれていく中に、どこかプーチンとウクライナの関係が重なって見えてしまうのです。
2022.03.05 16:00
NEWSポストセブン
清原果耶
清原果耶『ファイトソング』で鬼のコスプレをしても作業着姿でも失わない「らしさ」
 SNSでも飛び交うドラマ評、視聴者の視点は多岐にわたる。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。 * * * いよいよ終盤にさしかかった今期のドラマ。何とか盛り上げて着地したいと制作陣は願っているはず。主役の評判について言えば、やはりダントツで話題を集めているのが『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系月曜午後9時)の菅田将暉さんでしょう。久能整という人物そのものに成り切りドラマ世界を成り立たせ、がっちりと固定ファンを掴んでいます。 一方、これまで安定感バツグンで盤石と見られてきた黒木華さんはどうか?  特に今年2022年は黒木さんがドラマデビューして10周年と記念の年。『ゴシップ#彼女が知りたい本当の○○』(フジテレビ系木曜午後10時)では、大手出版社が運営するニュースサイト編集長・瀬古凛々子という主役を演じている黒木さんですが、どこか物足りない。もっと演技派のはずなのに、インパクトが足りないように感じてしまうのはなぜなのか。 凛々子という人物を、敢えて棒読みセリフで「何を考えているかわからない」謎のある人として造形していますが、一方では他人に判断できないことを揺るぎなく断言したり、強い正義感でぐいぐいと取材を進めていく。いったいどのような哲学で生きているのか、凛々子という人の設定の狙いや魅力が少々わかりにくい。 撮影前のインタビューにおいて、「本読みで黒木さんご自身が何かつかんだことはありましたか?」と問われた黒木さんは、正直に「まだわからないことが多いですね」(「オリコンニュース」2021.12.16)と答えていました。ドラマがスタートして中盤を過ぎても、未だに「わからない」状態が継続している気配。 追い打ちをかけるのが、お仕事ドラマにしては描かれた仕事の内容が薄いこと。ニュースサイト編集部が物語の舞台となっていますが、PV稼ぎにSNS炎上、フェィクニュースと今風の話題を解説するようでいて実はエピソードがチープで使い古された感あり。「もう少し現場を取材してくれていたら、リアリティが出たのに」とマスコミ業界からも残念がる声が届く。 では、若手女優で「今最も注目度が高い1人」と言えるあの人はどうでしょう? NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』でヒロインを演じた直後、民放ドラマで初主演している清原果耶さん。 その清原さんが主役・花枝を演じる『ファイトソング』(TBS系 火曜午後10時)は……児童養護施設で育った花枝は突然の事故に遭い、空手選手になる夢を諦めハウスクリーニングを仕事にしている。さらに発覚した耳の病。もしも手術を受けたら耳が聞こえなくなるかもしれない危機に直面した時に、偶然王子様のような一発屋ミュージシャン芦田春樹(間宮祥太朗)と出会い2人は恋のレッスンを開始する…。 突然の交通事故で夢を奪われ、さらに耳の病気で聴覚を喪失するかもしれない主人公。本人の力ではいかんともしがたい要素を配置した脚本です。しかも、耳の病気を患う花枝の相手がミュージシャンという安直さ。病気や手術という要素をご都合主義的に使いすぎると、視聴者としてはなかなか感情移入が難しい。 一方、花枝の幼なじみで彼女に思いを寄せている夏川慎吾役・菊池風磨さん、その慎吾を好きな萩原凛役・藤原さくらさんという2人のキャラクターが似通っている。軽口で毒舌、容姿は今風でチャラそう、しかし内心はナイーブで純粋…その2人がワイワイ重なると、どうにもクドい。ということでドラマ世界としては大人の鑑賞に耐えがたいのですが、しかしだからこそ、主役「清原果耶」という女優の可能性を発見できたのかもしれません。 たとえ虎のパンツをはかされ赤いカツラで鬼のコスプレをしても、やっぱり清原さん。たとえ作業着姿でも、たとえモップをかけていても、たとえ自ら男性にキスをしても。どんなシーンに置かれても、清原さんらしさというものが感じとれる。その意味で凄い。大きな声を出したり大げさなアクションは苦手だという清原さん。やや抑制的な演技を見せますが、それも彼女らしさを形作っているのでしょう。声は小さめでもちゃんと相手の言葉や反応し、ビビッドにリアクション。表情も細やかに変化していく。 弱冠二十歳ですが、「主演女優」という看板を背負う、落ち着きと清楚感とをたしかに持ち合わせていそうです。シリアスドラマからラブコメまで幅広いジャンルに柔軟に適応し、しかも常に清原さんにしかないテイスト感が出せるとすれば。今後の清原さんに女優の王道をいく可能性を感じたのは私だけでしょうか?
2022.02.26 16:00
NEWSポストセブン
”カムカムロス”が起きそう(NHK公式HPより)
『カムカム』で芝居勘の鋭さ証明した川栄李奈は納得のラストを示すことができるか
 母から娘へバトンをつなぐファミリーストーリー。高評価のまま推移しているだけにヒロインを引き継ぐ重圧も相当なものだろう。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。 * * * 前代未聞の不祥事が続く北京オリンピック。失格にドーピング問題と大荒れで人々の関心はそちらへと向きがちですが、ドラマに目を転じればいよいよ3人目のヒロインが登場! NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』では2月10日からひなた役の川栄李奈さんが姿を現しました。今回の朝ドラは史上初「100年三代に亘る」物語。上白石萌音、深津絵里と二人のヒロインがつないできたバトンが、とうとう最終走者へと手渡されたのです。 これまで約3ヶ月間、安子を演じた白石さんとるい役の深津さん、2人のずば抜けた演技力が光った。そして舞台やラジオ、活動写真や歌謡曲なども活用した飽きさせない演出に、優れた脚本が相まって、視聴者の心をがっちり掴んできた。それだけに、ここで登場するニューヒロインがすうっとドラマ世界に馴染むのかどうか……ひなたを演じる川栄さんはドラマや映画で芝居の上手さを見せてきましたが、AKB48出身、演劇畑で育った人ではないこともあって他の出演者とどう溶け合うのか正直、ちょっと心配でもありました。 しかし蓋を開けてみると……18才の娘・ひなたをそつなくこなしている。回転焼「大月」の雰囲気にもふっと溶け込んだ。数話終ったらもう「るいの娘・ひなた」にしか見えない。それくらい川栄さんの「芝居勘」は鋭い。キャスティングした制作陣の慧眼を讃えたい。 川栄さんは、自分がどういう立ち位置で芝居をすればよいかがわかっています。最も注目すべき点は、安子ともるいとも違う、ひなたのカラっとした現代っ子風個性を明快に表現できているところ。ぐうたらしていて優等生でなく平凡。人生の目標を設定できずモヤモヤしているあたりもリアル。川栄さんの実年齢は27才だそうですが、スッピン姿で18才の青春期を演じ、母や父への甘えぶりもまた絶妙です。 ひなたの唯一の趣味といえば時代劇で「ミス条映コンテスト」に応募するが落選。しかし、目を付けられて映画村でバイトをすることに。ひなたを見いだした大部屋役者・虚無蔵を演じる松重豊さんも加わって、残すところ約1ヶ月半。 今回の朝ドラは、ヒロインを支える脇の役者たちが実にいい味を出しています。例えば、お茶のお師匠さんにベリーこと市川実日子さん。「畳のヘリを踏んではいけません!」「手が遊んでる!」とビシビシ。師匠ぶりが板に付いていて着物姿も似合って素敵です。あるいは、ケチな荒物屋・赤螺吉兵衛役と息子の吉右衛門、二役を演じる堀部圭亮さんもクセになるような味わい。もはやちょっと画面に姿を現すだけで「くすっ」と視聴者の笑いが出るほど。脇のキャラクター造形がしっかりしていてそれぞれがファンに愛される豊かなドラマ世界。そしてカムカムはいよいよクライマックスへと向かっていく……。 ただし、懸念も無くはない。これまでの長い人生ドラマの陰翳を回収する、という大切な場面が待ちうけているのです。 戦災孤児の父、親に捨てられた母。艱難辛苦を乗り越えた両親の人生を、ひなたはいかに受け止めどう着地させるか。未だ生死の分からないるいの兄・算太のゆくえは? 娘を捨ててアメリカに渡った安子とるいの再会は?  明るくお転婆なひなたを演じるだけでは不十分で、100年三代の深淵をいかに表現し視聴者にカタルシスを与えることができるのか。川栄さんはアンカーとしての重大な任務を背負っています。器用さや巧さだけではすまされない、酸いも甘いも含んだ深い演技によって物語の幕引きをすることを求められているのです。「さすがこの人が選ばれた理由があった」と納得のラストを示すことができるか。川栄さんに課せられた出口戦略を固唾を飲んで見守っていきます。
2022.02.19 16:00
NEWSポストセブン
『カムカム』でトホホな男を演じるオダギリジョー、その独特で大胆な戦略
『カムカム』でトホホな男を演じるオダギリジョー、その独特で大胆な戦略
 何にでも憑依するのが役者だが、一方で既にあるイメージを最大限活用する演出の手法もある。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、評価の高い朝ドラについて分析した。 * * * 今や連続ドラマは1話、2話の走り出しが勝負と言われています。つまらないと思えば途中離脱は当たり前。話題にならなければチェックすらしてもらえず、時には録画していたことすら忘れられてしまう。動画配信には国内外のドラマや映画、スポーツとさまざまなコンテンツがズラリ揃い、好きな時に見られるという状況です。視聴者の限られた時間を奪い合う厳しい競争の中で、地上波ドラマも戦わざるをえません。 その一方、ついつい画面に目が引きひきつけられ、気になって仕方ないテレビドラマもあるから面白い。クセになってやめられない。ある種の「中毒性」を引き起こす。それがNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で大月錠一郎を演じるオダギリジョーさん。もう毎朝、目が離せない。 名トランペッターだった錠一郎は、突然のスランプに陥り音楽を諦めて良き家庭人となった。娘・ひなたが生まれると、娘の成長と共に父として一年生、二年生と少しずつステップアップを目指す。最初から完璧を求めない、マイペースな姿勢がいい。回転焼きも上手に作れないしお客さんの相手もできない。そんなふがいない自分を素直に受け止める父親ぶりがいい。 特に、困った時の表情は印象的。眉毛はハの字になりトホホという吹き出しが目に見えるよう。情けない表情にこうも味がある役者さんって、オダギリさんをおいて右に出る人はいない。声を張り上げず何ごともふわりと柔らかく受け止める。「柔よく剛を制す」という言葉を地で行くような錠一郎が、独特の味わいを出しています。演じているオダジョーがピタリとハマッて実に自然体。 そんなオダギリさんも、当初は朝ドラ出演のオフォーに戸惑っていたとか。「インディーズや小さな作品に重きを置いて活動して来たので、“朝ドラ”は自分らしくないかなとだいぶ悩みました」(「シネマトゥディ」2021.1/11)。制作陣が一ヶ月かけて説得した、という記事も見ました。『カムカムエヴリバディ』で注目すべき点とは、今回の錠一郎という役がオダギリさんへの「当て書き」だということでしょう。脚本家・藤本有紀さんの役者選びの慧眼、そして当て書きの手腕にはひれ伏したくなる。見事な筆さばきです。 実は朝ドラが始まるその前から、オダギリさんのトホホなイメージは多くの視聴者の無意識の中に共有されていた。錠一郎が登場した時、「あっどこかで見た」と思い、錠一郎が何かやらかすたびに「エアペイ」と心の中でつっ込みを入れた視聴者はきっと多いはずです。 そう、リクルートの決済サービス「Air PAY」のCMです。現金しか受け付けない店だとわかると、「じゃいいですぅ~」と踵(きびす)を返す客。その後ろ姿を見ながら「エアペイっ」と悔しそうにつぶやく店主役・オダジョーの姿は情けない男の結晶体でした。 CMの舞台は骨董品店であったり八百屋だったりと変化しましたが、特に注目したいのが「バー編」。デビッド・ジャガー(架空のロッカー)のファンであるバー店主、という設定で登場したオダギリさん。ヒッピー風の長髪にTシャツ、手にはLPレコード。その時代感覚といい雰囲気といい、まさしく錠一郎と被っています。チューリップハットにラッパズボンの錠一郎と二重写しになります。 すでにCMで流布していたシュールで可笑しい雰囲気を、NHK朝ドラの物語の中に大胆に持ち込んで活かしてしまう戦略も凄い。これって朝ドラ初の挑戦と言えるのかもしれません。きっと脚本家・藤本さんとオダギリジョーさんのコラボでしかできない、トリッキーで楽しいパロディなのでしょう。 脚本、役者、演出それぞれに遊び心があり楽しみがぎゅうっと詰まっていて宝箱のような『カムカムエヴリバディ』。こんな朝ドラ、見たことがない。残り2ヶ月弱と思うとロスが怖い。先のことは考えずに今を最大限楽しむしかない。 ここへ来てトランペッターとして再起しそうな気配も漂い始めた錠一郎。チューリップハットの父とはまたひと味違う、颯爽とした姿を見せつけてくれるのでしょうか? トホホな父の「情けなさ」を存分に強調したからこそ落差も際立つはず。改めて、惚れ惚れするような二枚目トランペッターの姿が見たい。ダイナミックな展開をお待ちしています。
2022.02.05 16:00
NEWSポストセブン
番組公式HPより
菅田将暉『ミステリと言う勿れ』 舞台的演出をテレビで試みる醍醐味たるやアッパレ
 新作ドラマの封切りのタイミングは心躍るものだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。 * * * 1月10日、冬ドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系 月曜午後9時)がスタートしました。初回スペシャルの印象を一言でいえば、90分間画面に見とれてしまった。心を持って行かれてしまった。特に当方は原作(田村由美氏の同名コミックス)を読んでいないだけに、予想外の展開と着地も含めて衝撃的でした。 何がどう面白かったのだろう。何が心を掴んだのか。 ドラマが終わって考えてみるに……第一話の特徴としてまず言えるのは、映像的な動きが非常に少なかったこと。限られた場所と人。大半が取り調べ室の中。それなのにこれほどフィクショナルな世界が膨らみ、見ている人の気持ちを揺さぶるとは……。 主人公は大学生・久能整(菅田将暉)。殺人犯と疑われ警察の薄暗い一室で何日間も取り調べをうける。と設定は非常にシンプル。取調室は逆光気味。顔に陰翳が落ちて表情もクリアには見えない。そして机といくつかの椅子、その他に物がほとんどない。 殺風景な空間。その中で久能が語り出すと言葉が全体を動かし始める。そのセリフは異常に長い……見慣れたテレビドラマとは決定的に違っていました。一言でいえば「舞台とテレビドラマが融合した世界」に見えました。 たとえば一般的なテレビドラマの場合は、できるだけ状況を再現したセットやロケ現場が用意される。仕事のドラマであれば職場、家庭ドラマならリビングや玄関、青春ドラマなら教室と現実に似せた空間の中で、登場人物たちをめぐるさまざまな出来事が発生してはそれを映像的に見せていく、という風に。それに対して『ミステリと言う勿れ』は、全くと言っていいほど映像に依存していない。再現映像は圧倒的に少なくて、役者たちの会話によって物語が展開していった。いわば、舞台演出の手法の新鮮さが目立ちます。 舞台では、たとえセットがなくても主人公が「ここは私の職場です」といえばそのように見えてくる。いちいち視覚的な再現性を追いかけなくても「約束ごと」によって物語が動いていく虚構の面白さ。見ている人もその「約束ごと」を受け入れて一緒に虚構の世界を味わう。 それだけではない。久能の表情を観察すると、ほとんど動きがない。まばたきもせず、眉間のシワも寄せず、口も大きく開けず。表情は最小限、その抑制的な演技によってよけいに言葉は尖り、人々の想像を刺激する。久能を演じる菅田将暉さんは、一つ一つ丁寧にピンで止めるようにして言葉を置いていきました。淡々と語る中に鋭い論理性や批評性が輝き出す。長セリフを語る集中力は突出していて、久能という人物の造形もブレや迷いがない。中には原作イメージとズレている、と違和を指摘する原作ファンもいるようですが。 そして、時々挿入されるバッハやチャイコフスキー等のクラシックが物語世界を彩り、場を一気に転換させていく。言葉・セリフによる展開。モノがそぎ落とされた空間。照明を駆使した光と影。音楽による場面転換--まさしく舞台的な演出術の極みでしょう。 一方、久能の言葉に反応する周囲の役者たちの演技も素晴らしく光っていました。まず、薮警部補を演じた遠藤憲一が凄まじい緊張を漂わせていた。ピクリと皮膚が動くだけで内面の感情の変化が伝わってくる。青砥刑事役の筒井道隆から、冤罪事件の過去を抱えている人間の複雑さが伝わってきた。池本巡査役の尾上松也はおふざけ風の狂言回しがピタリとはまっている。 そして紅一点、新人刑事・風呂光聖子役の伊藤沙莉。静かに歯を食いしばる風情が非常にいい。我慢し続けてきた組織の矛盾、マグマを抱えている人の心の叫びが無言のうちに視聴者に伝わってきました。 このドラマが発するメッセージも思索的でユニーク。人は多面的で複数の顔を持っている。現実にはいくつもの真実が併存する。人は主観でしかものを見られない。だから人の数だけ真実がある--そうしたいわば哲学的なテーマを、人間の葛藤を通して伝え切ったあたりも圧巻。これぞ、コロナ時代の斬新なドラマ表現と言えるのかもしれません。 どうやら撮影自体は昨年6月には大半を撮り終えていたもようで、コロナ禍のさなかでの作品作りだったはず。昨年前半といえば芸能界でも感染が拡大し、出演者のコロナ感染による撮影中断や放送延期も相次いだ時期でした。ドラマの中に漂う張り詰めた緊張感はそうした危機的状況から生じた部分もあるのかもしれません。 接触を避け人もセットもロケも限りなく引き算していくことが要求されるコロナの時代に、舞台的演出をテレビドラマで大胆に試みる醍醐味たるやアッパレ。フジテレビは今、厳しい経営状況の下にあると聞きます。看板番組に大鉈を振るいコストカットを断行し、職員の早期退職も募っているさなかとか。今後は「”ドラマのフジ”路線を狙っている」というニュースも目にしましたが、果たしてこのドラマがフジテレビの躍動を支えていくのか。第一話「見逃し配信」では歴代最速100万再生を突破したことが発表されました。ドラマの緊張感が2話以降もきっちりと続くのか、大注目です。
2022.01.15 16:00
NEWSポストセブン
黒木華の笑顔にも注目が集まった
黒木華、清原果耶、松本潤 2022冬ドラマで評価を高めるのは誰か
 いよいよドラマのほうでも新たなクールが始まる。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。 * * * テレビでは正月番組がほぼ消滅しドラマ全話再放送も目立った年初。1月3日、まだお屠蘇気分の中で早くも再開された連続ドラマが、NHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』です。 正体不明ゆえに「宇宙人」という仇名が付けられていた男が、実は人気トランペッターと判明。物語はギアを上げて展開していく勢い。そう、何と言っても新年早々、視聴者の視線を集めたのはトランペッター役として登場したオダギリジョーです。 身長はすらりと高くまさに正統派二枚目。リーゼント風の髪型でトランペットを吹く横顔を、惚れ惚れと見とれた視聴者も多いはず。しかしどこか脱力していてトホホな感じを持ち合わせているのがオダギリさん特有の魅力でしょう。役者としての色気やケレン味もあって視線を惹き付ける力はバツグン。不思議な魅力をまとったオダギリさんが今年も大暴れしてくれそうな気配です。 さて、民放の冬ドラマも続々とスタートするこの時期。まず、主役に期待したいドラマが1月6日にスタートした 『ゴシップ#彼女が知りたい本当の○○』(フジテレビ系午後10時)。黒木華さんがフジテレビ系ドラマ初主演の注目作、しかも演じる役がニュースサイトの編集者とは。 物語は……月間5000万PVという目標を達成すべく「ゴシップで攻める」戦略を立てるネット編集者・凛々子(黒木華)の格闘ぶりを描く。完全オリジナルの社会派“風”お仕事ドラマとはいえ、業界事情を多少肌で感じている当方としては、いかに細部まで面白くリアルに描けるのかとハラハラしながら見守っています。 ストーリー展開もさることながら、黒木華という役者の力がどう発揮されるのかが最大の注目点。黒木さんは、タイプは違えどオダジョーに匹敵するような不思議な魅力を纏っている。いわゆる美形というより個性派、しかしだからといって「これ」という強いイメージはなく、ふんわりほんわか。それが強みかもしれません。どんな人にでもなれてしまう黒木さんに良い意味での「余白」を感じます。 例えば2016年放送の『重版出来!』(TBS系)では出版社の新人漫画編集者として突撃系を、2019年放送の『凪のお暇』(TBS系)では脱力ヒッピー風の自由人を演じて味わい深かった。一方で2021年の『イチケイのカラス』(フジテレビ系)では東大法学部出身で将来を約束されたエリート裁判官と、それぞれのドラマでさまざまな役柄を演じ、いずれも好評を博してきました。 黒木さんは強い押し出しがないかわりに、相手の求めるものを受け取る力、良い意味での余裕を感じさせる役者。さまざまな人物に変身できるからこそ、時代にピタリ合わせていくことが可能なのかもしれません。今回はネットニュースの編集者というまさに時代のど真ん中にいる、ちょっとクセのある職業人。いかに面白い人物を描いてくれるのか、期待はふくらみます。 さて、対照的に「真面目で優等生」のイメージをしっかりと纏っているのが清原果耶さん。11日から始まる『ファイトソング』(TBS系火曜午後10時)でいよいよ民放ドラマ初主演。彼女の挑戦からも目が離せない。 清原さんといえば、昨年の朝ドラ『おかえりモネ』の主人公・百音で注目を浴びました。内省的で引っ込み思案、やや暗いめのキャラクターを実に上手に演じ切っただけに、今回のコメディドラマでどこまではっちゃけることができるのか。真面目な印象を、いかに逸脱して芸幅を広げることができるのか。 もし、その転換が上手くいけば、今後さらに多彩なキャラクターを演じる機会が増えるはず。今作はオリジナル脚本で当て書き、しかも大御所の岡田恵和氏が脚本担当という点も期待を膨らませてくれます。 もう一つ、オリジナル脚本といえば20日にスタートする遊川和彦氏の『となりのチカラ』(テレビ朝日系木曜午後9時)も見逃せない。 主人公である自称小説家・中越チカラ役を、嵐活動休止以降初の主演である松本潤さんがやるというのだから。しかも、この中越チカラという人物は何をしても中途半端で半人前の“中腰な男”。三枚目的役どころを38才の松潤がいかに演じるのか。『家政婦のミタ』を生んだ遊川脚本だけに、トンデモ展開になってもそれはそれで興味深いものがあります。松潤にとっても好機到来、これまでのイメージを脱ぎ去って、新たな演技者として人間の複雑さを描くことができるかどうか正念場でしょう。
2022.01.08 16:00
NEWSポストセブン
神尾楓珠『顔だけ先生』は国宝級イケメンによる複雑な味わいのある秀作
神尾楓珠『顔だけ先生』は国宝級イケメンによる複雑な味わいのある秀作
 役者の魅力は作品の質によっていくらでも変化しうるものだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。 * * * 2021年の秋ドラマもいよいよクライマックスへ。前評判に比べて今ひとつインパクトに乏しかった作品もあれば、ドラマの雰囲気は超真面目なのにツっコミどころ満載で視聴率は絶好調、予想外にウケてしまった作品も。例えば12日に最終回を迎える『日本沈没―希望のひと―』(日曜21時 TBS系)。ネットには視聴者からのツっコミが目立ち、「嘘っぽい」「陳腐」「なぜ今、日本沈没のドラマ化なのか意図が解りかねる」などと根本的なことまで愚痴りながらも、最終話まで見続ける視聴者がたくさんいて興味深い。 その反対に、世の中的には話題作とは言えないけれど、個人的には最高点を差し上げたいドラマもあります。既成概念をぶっ壊す力が絶大で、クスッと笑えて爽快で、しみじみ心に沁みる。ドラマっていいなあ、若さとは可能性そのものなのだ、と素直に納得できるオリジナル学園ドラマが『顔だけ先生』(土曜23時40分 東海テレビ・フジ系)です。一言で説明すれば「破天荒な教師が問題を解決していく」定番の学園モノ。しかしこれが一筋縄ではいかない、複雑な味わいのある秀作に仕上がっています。 タイトルの『顔だけ先生』とは、自分至上主義で非常識ながらルックスだけは抜群、教師らしいことは一切しない先生のこと。その遠藤先生を演じているのが「目ヂカラ世界遺産」、「国宝級イケメン」(「ViVi国宝級NEXTイケメランキング」2019)と評される神尾楓珠さんというのがまず面白い。 最初から国宝級のイケメンを「顔だけ」と言い放ち、ふっきれている。イケメン=モテる、チヤホヤされる、恋愛話……といった連想を断ち、顔以外には全く評価を受けない存在が教師になる、というパラドックスを展開していきます。遠藤先生は超マイペースで数々の非常識きわまりない行動をやらかしていくけれど、実は本質的なところを突いていて、それが高校生の心に届き生きる力になっていく、という物語の構造です。 さて、神尾さんのルックスですが、たしかに見れば見るほど整っていて国宝級のイケメンぶりを実感させられますが、遠藤先生のキャラクターは破壊的です。「これって普通だと思いますよ」とか言いながら、常識を軽々と超えていく風変わりな人の魅力を引き立たせているのが、神尾さんの徹底した役作りです。 神尾さんは遠藤先生について「セリフの中で核心をつくことがあるが、さらっと言っているように意識している。深いことを言っている、それを出さないのが遠藤という人」とコメント。飄々と常に爽やかな笑みを見せながら自由で勝手な振る舞いを連発し、どこまでも振り切れた人物を気持ちよく表現できているあたり、役者としての力を感じます。 教師そのものが「常識」という枠組みを淡々と越えていくから、このドラマは説教臭くないしお涙頂戴的でもない。同僚の教師・亀高先生を演じる貫地谷しほり、教頭役・八嶋智人ら周囲を固めるキャストたちも非常にノリが良くパロディとギャグの応酬で笑わされる。しかし扱うテーマは決して軽くなく、ひきこもり、モンスターペアレント、ゲイの告白、外見差別…と社会問題から逃げない。一見すると学園コメディ、実は映像も演出もクリエィティブ、ふと気付けば泣かされる深みがあります。 脚本も光っています。セリフに背骨がしっかり打ち込んであって強固な哲学すら感じさせるのです。おそらく伝えたい要素とは、こんな風なことではないでしょうか?「道徳や常識で人をコントロールしたり、脅して動かそうとするのは最低」「多くの先生はムダに権威主義で、本当に大切なことは教えていない」「調和を意識しすぎ、ルールによって縛り自らの人生をないがしろにしていないか」「何かの一部品になんてならなくていい」「相手を批判したり対立したりするのは、実は安易なやり方でうまくはいかない。それとは別の肯定的な方法を探し、結果として問題を解決していくことこそ大切」 いずれも本質的なテーマであり、ドラマの中に大人の自分が失ったものを見つけては考えさせられてしまうのです。『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ)、『ここは今から倫理です。』(NHK)と学園モノは数々の異色作を生み出してきました。教師と生徒、未成年と大人、世間と学校、常識と非常識、正義と悪事……社会の中にある様々な境界線について問いかけるからでしょうか。登場人物の多くが未成年だから本質的な問いが大きな意味を持って立ち上がってくるのでしょう。 つまり学園とは、ドラマを生み出す豊穣な貯水池。巨大な予算をかけなくてもドラマを面白くする工夫や方法はまだまだそこから湧いてくるのではないでしょうか? 異彩を放つ見応えのある学園ドラマが生まれてくることを期待します。
2021.12.11 16:00
NEWSポストセブン
番組公式HPより
清野菜名の『ハンオシ』 逃げ恥メソッドを踏襲するアッパレな戦略
 ヒットドラマの”法則”は、コアなファンにとって心地よいものである。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。 * * * ドラマ『婚姻届に判を捺しただけですが』(通称『ハンオシ』)の放送時間はTBS火曜日の午後10時。そう、『逃げるは恥だが役に立つ』『恋はつづくよどこまでも』『私の家政夫ナギサさん』等のヒットラブコメを連発してきた時間枠です。 率直に言って今回の『ハンオシ』は、『逃げ恥』ほどの人気を集めているとはいえないけれど地味に手堅い。視聴率を見ても第1話9.4%からスタートし第4話で10.0%と二桁台にのせ、今週放送された第6話は9.2%(関東地区 世帯視聴率)と、後半に入っても底堅く安定飛行を続けています。 この時間枠にTBSがラブコメをブレずに貫いてきた一定の成果であり、視聴者の潜在的ニーズをきっちりと掴んでいる証しでしょう。 物語は--イケメンの広告マン・百瀬柊(坂口健太郎)に“偽装結婚”を頼まれた大加戸明葉(清野菜名)。結婚に全く興味がなかった明葉も、突如必要となった資金のため「返済したら離婚する」という条件付きで借金+偽装結婚に応じることに。 そもそも明葉はデザイナーで“おひとり様最高”のバリキャリ。百瀬も「不毛な恋の隠れ蓑として既婚者になりたい」という不純な動機を持つ。 いわば、両者仕方なくスタートした偽装結婚ですが、二人の距離は微妙に近づき胸キュンシーンも挿入され……まさしく逃げ恥メソッドを踏襲したTBSのラブコメ路線、したたかです。 今作は特に、キャスティングに注目でしょう。何といっても百瀬役の坂口健太郎さんは、直前までNHK朝ドラ『おかえりモネ』で大人気の「菅波先生」を演じていて朝ドラが終わったとたんにTBSへと横ずれ。百瀬の人柄も菅波先生に通じるところがあり、やや不器用で女性とつきあった経験も多くはない。となるともはや菅波先生と別人と言われても視聴者は自然に朝ドラに重ねてしまい、あるいは混同する形で坂口さんを見つめてしまう。 考えてみればアッパレな戦略です。NHKで盛り上がったキャラの成果をそっくりスライドさせて活かすとは。こういう方法もあったのか、と膝を打つ。 一方、朝ドラで菅波先生の相手役・百音を演じたのは清原果耶さんでした。その女優オーラにちょっと自分を重ねられなかった視聴者も、こう言っては失礼だけれど清野菜名さん演じる明葉にはリアリティを感じてほっと一安心。 スッピンに近い薄化粧で髪ぼさぼさの寝起き顔、仕事に熱中する他はちょっとずぼらで部屋も雑然としている。細かいことは気にしないタイプでいちいち男性に裏声を出したりシナを作ったりしない……とくれば、仕事に忙しい女性たちのリアルにかなり近く、感情移入しやすい視聴者も多いのではないでしょうか。 百瀬を演じる坂口健太郎さん、そして明葉役の清野菜名さん共に配役の妙。「試しにそのうるさい口、黙らせてみましょうか」と百瀬にささやかれキスしそうになったり、百瀬のネクタイぎゅっと引っ張ってキスとなれば少女漫画的王道路線を邁進しています。 胸キュンラブコメの「型」を活用しながら、しかし持続的効果的に使うには、常に点検や補修に気を配らねばならないはず。だから路線を維持することは、実はクリエイティブな行為とも言える。 TBS火曜日ラブコメのキャスティングに注目してみると……『逃げるは恥だが役に立つ』の新垣結衣×星野源、『恋はつづくよどこまでも』の上白石萌音× 佐藤健、『私の家政夫ナギサさん』の多部未華子×大森南朋、そして今回の清野菜名×坂口健太郎。 それぞれ独自テイストのパワフルな配役です。「胸キュン」を保ちつつも全然違うテイストのカップルによって、それぞれドラマ世界の味わいを出していく工夫は巧者であり評価されるべき点ではないでしょうか。
2021.11.27 16:00
NEWSポストセブン
スナックのママ役を演じる女優・原田知世 ©「スナック キズツキ」製作委員会
『スナック キズツキ』の原田知世にはあのCMと共通するぬくもりがある
 キャスティングの妙を実感させる作品に出逢った時の悦びはまた格別だ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が考察した。 * * *  11月9日に永眠した作家・僧侶の瀬戸内寂聴さん。享年99、人生を謳歌したアッパレな大往生。過去のラジオ番組では爆笑問題が寂聴さんにこんな質問を投げかけました。「いろいろと悩み相談を受けても、これはちょっとさすがにどう答えたらいいかわからないってときもあるでしょ?」 さて、寂聴さんはこの質問にどう答えたか?「答を求めてるんじゃないの彼らは。(話を)聞いてほしいの」「もし身の上相談を受けたら、一生懸命聞いてあげればいいのです。答はいりません。ただ聞いてあげればいいのです」という名言も残しました。ポイントは「回答する」ことではなくて、「真剣に聞くこと」にありそうです。「そうでないと相談がいつまでも終わらないから。きちんと聞けば、30分で帰っちゃうんだから」と茶目っ気のある口調で笑わせる寂聴さんの姿もTVの追悼シーンで流れました。 瀬戸内寂聴という人の自由奔放な生き方には激しいバッシングもあった。一方で、特に晩年の法話には熱狂的なファンがおしかけ、人生相談乗って欲しいという人がひきもきらなかった。その理由はひとえに、寂聴さんの「受け止める力」だったのではないでしょうか。 そう、みんな自分の悩みを聞いてほしい。わりきれない思いを受け止めてほしい。これほど誰かに「聞いてほしい」と多くの人が思っている時代は他に無いのでは?という時代にピタリと適合するドラマがあります。『スナック キズツキ』(テレビ東京系金曜夜00:12)は都会の路地裏でひっそり営むスナックが舞台。ママのトウコを原田知世さんが演じています。そこはちょっと風変わりなスナックで、アルコールは出さない。ふらりと入ってくるのは傷ついた人々。 ある夜はコールセンターで働く中田優美(成海璃子)が、顧客のクレーム対応でストレスを抱え夜道に光る看板に誘われ入ってくる。 ある時はコンビ二でバイトする富田希美(徳永えり)が、自分は誰にも見つけてもらえない、誰かの役に立つわけでもない人生について、一抹の寂しさを抱えて入ってくる。 ある夜は主婦・中島香保(西田尚美)。タワマンで豊かな暮らしをし一人息子はエリート国立大学に合格したのに、どこかわりきれない。満たされない……。 原田知世の演じるトウコママの口調はちょっと変わっていて、初対面であろうが誰に対しても友達言葉。「今日もおつかれさん」「ごくろうさん」「そうだね」「うん」とフラット。 前から知っている人みたいに何げなく語りかける。相手はふっと肩の力を抜いて口にできなかったことを囁くように口にする。 トウコは美味しい飲み物を出す。あとは客にアドバイスらしいアドバイスもしないし具体的な回答も出さない。ただ静かに客の思いを「受け止める」。どこまでも自分流に。しかし、いい加減ではなく。傷付いた人たちは、トウコと話したり、詩を朗読したり、歌ったり、しりとりをしたり、思い出のディスコダンスをしたり。 トウコと「一緒にやる」というのがポイントです。どんな意味があるとか効能があるのかは説かず、ただ一緒に「やる」。それが受け止める作業なのでしょう。 すると傷付いていた客は少しだけ違う自分になっていく。もやもやがふっと軽くなり「明日がんばってみようかな」と思う。ドラマティックな大変身ではないけれど「なんとかやってみよう」と思える自分になっていくのです。「刑事ドラマや恋愛ドラマのドキドキに疲れたら、ドラマ24『スナック キズツキ』へ遊びに来てください。」とこのドラマのプロデューサーも語っています。 たえず刺激に囲まれている日常。過剰なアピールやクレーム、自己主張、怒りを他からぶつけられてクタクタに疲れている現代人。「自分の人生はこれでよかったのか」という満たされなさやむなしさを抱えている人も多い。それを捨てる場所が必要なのでしょう。 考えてみるとトウコママの役は、原田さん以上にぴたりハマる女優さんってなかなか思い浮かばない。その意味で原田知世という女優は余人を以て代えがたい。 かつては『時をかける少女』(1983年)で日本アカデミー賞等各映画賞の新人賞をとり「薬師丸ひろ子に次ぐ大型新人」と注目を浴びて人気者に。でも、だんだんと自分流のマイペースにシフトしていき「降りて」いった足取りが見事です。 気付けばいつも空気のように漂っていて、近くにいるけれどさほど意識させない。でも、他に代えがたい存在。その好例が味の素AGFのコーヒー「ブレンディ」のCM。驚くことにこのCMは原田さんが20年以上も連続で出演していて、同一ブランドでのテレビCM出演時間は日本一(ビデオリサーチ調べ)だとか。 刺激的でなく目障りでもなく、押し付けもしないけれど、生きている人のぬくもりがある。そんな原田テイストが存分に活かされているという意味で、スナックキヅツキとブレンディのCMに共通するものがあります。 特にトウコの目尻のシワが味わい深い。ふとしたお疲れ感がいい。化粧で隠さずに生きてきた履歴を見せている。「こんなスナック、近所にあったらいいな」「行ってみたいな」という思う視聴者はたくさんいるはず。けれど、そう簡単ではないのです。原田さんのトウコだからこそ人々は傷付いた自分を自分で修正できる。これもまた、瀬戸内寂聴さんとはひと味ふた味違う「受け止め力」のたまものでしょう。
2021.11.19 16:00
NEWSポストセブン
小栗旬の『日本沈没』 作品を薄く広く覆っている「軽さ」について
小栗旬の『日本沈没』 作品を薄く広く覆っている「軽さ」について
 秋ドラマも続々とスタートしているが、TBSの日曜劇場といえば、近年ヒット作を続々生んできた再注目の枠。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。 * * * 小栗旬主演のドラマ『日本沈没-希望のひと-』(TBS系日曜午後9時)が絶好調。平均視聴率(世帯)第1話は15.8%、2話15.7%と高い数字をキープ。見逃し配信の再生回数も初回の放送後1週間で261万回(TVer、TBS FREE、GYAO!の合計値)と同枠の歴代作品1位に輝いたそうです。という数字もさることながら、豪華な俳優陣にびっくりした人は多いのではないでしょうか。 エリート官僚役に小栗旬、松山ケンイチ。地球物理学者に香川照之、國村隼。内閣総理大臣に仲村トオル、副総理に石橋蓮司……。ズラリと居並ぶ有名俳優たち。コストをかけて作っていることがうかがえTBSの力の入れようが伝わってきます。とはいえ、その費用対効果がきちんと出るのかはまだ未知数です。 原作はSF作家・小松左京のベストセラー『日本沈没』。その原作に大きくアレンジを加えて2023年の東京が舞台。日本地球物理学界の異端児・田所博士(香川照之)が“関東沈没説”を唱えるが、政治的な攻防によってデータの改ざん・隠蔽が行われてしまう。検証報告の結論に異を唱える環境省のエリート官僚・天海(小栗旬)は、何とか田所博士の研究を伝える手段を探っていくが……。 まさしく一国の運命がかかっている壮大な話。いや壮大さだけでなく、テーマの深刻度もド級です。というのも現実の世界では阿蘇山をはじめ各地の火山が噴火し、海の中でも小笠原諸島付近の海底火山等が噴火中。東京は震度5の地震で帰宅困難者が出たばかり。30年以内に南海トラフ地震が70%~80%の確率で発生すると予測され、最悪の場合の死者は32万人と警告が出ている。 まったく他人事ではありません。だからこそ、このテーマは今やるべきだとも言えるでしょう。警告の役割を担うという意味で。しかし、ドラマ全体を薄く広く覆っている「軽さ」が、現実の危機との落差を否が応でも感じさせてしまう。 田所博士は「地殻変動によって関東が沈む」と主張。そんなショッキングな指摘をしているというのに、風変わりな研究者の単独の研究で偏屈な主張として描き出される。多数の人の生き死にを左右する問題という張り詰めた空気感が、なかなか伝ってこない。2023年の東京を舞台に設定したのだとすれば、そのあたりがやや中途半端ではないでしょうか。 東日本大震災を経た日本では、大地震や地殻変動はすでにフィクションの領域ではない。つまり、50年程前の1973年に刊行された『日本沈没』の頃と人々の認識が全く違うものになっています。だとすると、今回のドラマも「最も深刻なテーマを扱っている」前提でいかに料理していくのかを考えなくてはならないのでは? 田所博士のもじゃもじゃカールした髪型と丸メガネゆえか、その主張が「トヨタイムズ」のスクープ程度に見えてきてしまうのは困ったもの。マッドサイエンティストのパロディ版のような演出が必要なのかどうか。カリカチュア的芸風をわざわざ踏襲しなくてもよかったのでは? 香川さん自身はベテランで芸達者なので、演出によっていかようにも抑制をかけることは可能なはず。 いや、あまりリアル感を出すと、娯楽として成り立たたなくなると判断した制作陣が敢えてこの形を選んだ? などとドラマを見ていても余計なことばかり頭に浮かんでしまいます。 香川さんだけではありません。内閣総理大臣役に仲村トオルさん、外務省のエリート官僚に中村アンさん、ナレーションにホラン千秋さんと、どこか軽すぎる。もちろん役者が悪いのではなくいかに演出するかの問題でしょう。 もし、キャスティングや演出をこのままに半沢直樹風のドラマをやるのであれば、地球相手の大災害というよりも、例えば今世間を賑わせている某大学の背任事件あたりをテーマとした方がフィットしたのかもしれません。 とはいえ、主要人物のほとんどがオリジナルキャラクター。それだけに自由度が高くいろいろな展開ができそう。今後に注目です。日々実感する危機とドラマ世界の落差、現実に起こっていることとの何ともいえない違和感を解消していく、制作陣の手腕を期待します。
2021.10.23 16:00
NEWSポストセブン
父は石橋凌、母は原田美枝子の俳優一家に育った(時事通信フォト)
石橋静河 七光りを感じさせず「誰にも何にも似ていない」その不思議な魅力
 役者が持つ空気、それがどこに由来するのか、説明することはなかなか難しい。だが、独特の空気を持つ俳優は確かにいる。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。 * * * 道路交通法違反・引き逃げの疑いで逮捕・不起訴処分になった伊藤健太郎さん。芸能界復帰はなかなか難しいと言われてきた中で、久々にテレビドラマの画面に現れ注目を集めています。10月12日深夜からスタートした『東京ラブストーリー』(フジテレビ系 火曜日24時35分)の「カンチ」役です。 ご存じ1991年に織田裕二と鈴木保奈美が共演して話題を振りまいたトレンディドラマの令和版。FODで昨年配信され今回は地上波での初放送となりました。同時に旧作品もFODやTVerで動画配信中です。29年ぶりに蘇った令和版東京ラブストーリーでは、織田裕二が演じた完治を伊藤さん、鈴木保奈美の演じたリカを石橋静河さんが演じています。 まずはカンチ役・伊藤さんの久々の姿と、若手ながら細かい表情やしぐさを作る演技巧者ぶりに目が行きますが、それ以上に気になる存在がヒロイン・リカ役に抜擢された石橋さんです。 かつて鈴木保奈美さんが演じた赤名リカは、甲高い裏声を響かせるキャピキャピした自由奔放な人でした。当時の「帰国子女」のイメージに沿った天然系で、今見るとハイテンションがわざとらしい感じすらする。 一方、石橋さん演じるリカはどうでしょう?  鈴木版リカと何が違うかと言えば、まず声のトーン。アルトの低音で声は張らずサバサバとした自然体。アート系ぶるでもなく、ちょっと意識高い系の匂いがしそうでいて、しない。鈴木版のリカが熱を帯びた「ハイテンション」系だとすれば、石橋版のリカは低温「フラット」系と言えばいいでしょうか。そこに時代が映し出されています。一歩ずつ自分の道を進むリカの足取りの確かさが、伊藤さん演じる若いカンチを惹き付け、カンチが翻弄されていく感じがとてもよく描かれています。 いや、今回のリカだけではありません。「石橋静河」という女優を見ていると、不思議な気分になる。そう、「誰にも何にも似ていない」から。ズラリと居並ぶ役者さんの中で、ついつい石橋さんに目が行ってしまうこの吸引力は、どこから来るのでしょう? 思い返せば春のドラマで話題となった『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系)の三ツ屋早良役も、印象に残る人物でした。頭の回転が速くて弁が立ち自信過剰。超特急でまくし立て理屈っぽく、関わりたくない女を見事に演じ切った石橋さんに対して、放送時は「嫌悪の声があふれる」などと伝えられましたが、つまりは「いかに上手に役に成りきったか」ということ。 嫌な女に存分に変身した後、しかし負のイメージを引っ張るわけでもなくさらりとリセット。例えば今放送中のCM「サントリー天然水」の「雨あがる」篇では、早良とは対極にあるような透明感。大自然の中で流れるようなダンスを披露し体の動きを通して人に語りかけることができる希有な才能を見せてくれています。 いわゆる美系とはやや違う個性派ですが、見れば見るほどクセになる要素がある。「さて、この人ならどうやるだろうか」と次の役が見てみたくなる。妙な人格の役柄ばかりやらせてみたくなる。 等身大のご本人はかなりの苦労人です。4歳からクラシックバレエを始め中学卒業後15歳でボストン・カルガリーのバレエスクールへ留学。17歳でカナダの名門バレエ学校に入るがプロにはなれず。外国での武者修行を経てコンテンポラリーダンサー、そして役者へ。石橋凌と原田美枝子の娘という「七光り色」も感じさせない不思議。映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』では映画に初主演し、キネマ旬報紙の日本映画ベストワン評価やブルーリボン賞新人賞等多くの賞を獲得しました。 周囲に引きずられない石橋さんのしなやかさと凛とした強さ、どんな役をやっても役に成りきり、しかし役にまみれずリセットする力は、多くの女性視聴者の共感を集めています。石橋版リカもまた一つの風変わりな憑依型であり、その次にまた何を見せてくれるかと期待させる石橋さん。女優道から目が離せません。
2021.10.16 16:00
NEWSポストセブン
小説『ムショぼけ』が北村主演で連続ドラマ化
中年の味を表現する北村有起哉 『ムショぼけ』の元ヤクザは実にハマり役
“秋の新作”が続々とスタートする。視聴者の分析の結果なのか、ドラマの世界でも多様化が進んでいるようである。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘した。 * * * 妻と久しぶりに手をつなぐ中年の男。夜景を背に、触れあう二人の指先、照れた表情が印象的。「心がほっこり温かくなる」「琴線に触れる」と話題になったCMがAmazonプライム「その特別な時間が、きっといちばんの特典です」版。 仕事でいつも忙しい中年夫婦は、すれ違いばかり。相手のことを思いやる精神的な余裕も時間もない。そんなある時、夫は冷蔵庫の扉に貼られたメモの奥に、昔妻がくれた「いつでもこの頃に戻れる券」を見つけた。あの頃に戻ろう--そう思い立ち、仕事終わりの妻を迎えに行く……。 たった十数秒の映像が詩情豊かに心に届く。ごく短い時間でメッセージを伝えきる役者さんたちの力もすごい。演じている彼ら自身「役者冥利に尽きる」はず。実は二人は本当の夫婦-北村有起哉さんと高野志穂さんの共演ということでも注目を集めました。 このCMが共感を呼んだポイントに「中年の味」が隠れていると思います。人生経験を重ねて酸いも甘いもかみ分けているからこそ、短くシンプルな中に温かみや深みが表現できるのではないでしょうか。 そう、北村さんはデビューから23年目、47才のベテランです。個性的な役柄でさまざまなドラマや映画に登場してきた、いわばピリリと効く山椒のようなバイプレーヤー。その北村さんが秋のドラマで「初めて連ドラ主演の座を掴んだ」というのだから嬉しい驚き。 AmazonのCMが中年のロマンとユートピアを描いているとすれば、北村さん主演のドラマ『ムショぼけ』(ABCテレビ 日曜午後11時55分/テレビ神奈川 火曜午後11時)は、さしずめディストピア風ヒューマンコメディか。主人公の陣内は14年間刑務所に入っていた元ヤクザ。不器用で曲がった事が許せない陣内は、敵方の親分を射撃して刑務所へ。その間に自分の組から破門され妻には離婚され子どもたちも失った。14年ぶりに出所してシャバの空気を吸うと……すでに世の中はガラッと変化している。 コンビニの袋は有料化され料金を請求されるし、タトゥーはもはや任侠のアイコンではなく一般人の趣味になっていて、両腕を見せても誰もおびえない。好きな場所で煙草を吸う自由もなくなり、スマホがなければ市民権さえ脅かされる日々。まさにディストピア……。 たった14年という時間が、実に大きな落差を生み出している。一見何の変哲も無い日常の風景の中にある違和が少しずつ見えてくるプロセスが面白怖い。まるで今浦島太郎物語のようです。 長期服役による「拘禁反応」、つまり「ムショぼけ」をテーマとした異色作ですが、同名の原作(小学館文庫)著者・沖田臥竜氏はまさしく元ヤクザ最高幹部。つまり実体験がベースとなっている原作だけあって奇妙なリアル感が満載です。プロデュースは『ヤクザと家族 The Family』や映画『新聞記者』等を手がけた藤井道人監督が担当し、エッジを効かせたブラックな笑いに包まれつつ泣かされるヒューマンコメディに仕上がっています。 尼崎のロケなど丁寧に撮影された映像に遊び心が宿った演出もいい。何より主人公・陣内役の北村さんが、ぴたりとハマっています。 一方、中年の味わいがありかつGP帯地上波のドラマ初主演といえばこちらも注目です。キャリア20年超の41才、江口のりこさんがベンチャー企業社長を演じるドラマ『SUPER RICH』(フジテレビ系 木曜午後10時8分)。 タイトルのスーパーリッチは「超富裕層」のこと。江口さん演じる氷河衛(ひょうが・まもる)は急成長中のベンチャー企業社長でバリバリの女性起業家。金は潤沢にあるが生活に愛はなく甘える相手もいない。その会社にインターンとして入ってきた貧乏学生が春野優(赤楚衛二)。こちらは金はないが愛情に包まれて育ってきた。 女性起業家と貧乏青年、生まれも育ちも年齢も考え方も正反対の2人がいかなる化学反応を引き起こすのか……来週14日スタート、オリジナル脚本なのでまだ展開の予測がつかずワクワクします。 北村有起哉さんと江口のりこさん。いずれも経験豊かで噛めば噛むほど味わいがあり、芸能界でサバイバルしてきた凄みも加わって存在感が光る。ただでさえ生きにくいこの社会で「格好良い中年の生き様」なんてそう簡単には描けないはず。ぜひ二人にはみなが憧れるような中年のモデルを、それぞれのドラマの中で構築して見せてほしいものです。
2021.10.10 16:00
NEWSポストセブン

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