幸い清澄は手芸をやめることなく姉のウェディングドレスを縫い始める。離婚した父親を巻き込み、寺地さんいわく「各自が形のないものを縫い合わせるようにして」家族の物語は結末へと進んでいく。
寺地さんが登場人物に向けるまなざしはやさしい。祖母の文枝は、心ない言葉に傷ついた経験がある。74才にして水泳に挑戦し、過去の傷から自分を解放していく姿が印象的だ。寺地さん自身、ここを読むたびに泣いてしまうという。
「生きていれば、どうしたっていやな目に遭うわけで、そのとき『いやだった』と言える世界がいいと思うんですね。他人の傷を軽視するのは、いちばんやっちゃいけないことのような気がします」
読み終えて本を閉じるとき、温かさがあふれ出してくる一冊だ。
◆取材・構成/仲宇佐ゆり
※女性セブン2020年7月16日号